第18話 この領地が、存在していい理由
自警団が機能し始めてから、一週間。
領地は、表面上は落ち着いていた。
だが――
俺の頭の中では、ずっと同じ問いが回っている。
(この場所は、なぜ“生き残れる”んだ?)
守れるからか?
食料があるからか?
人が増えたからか?
――違う。
それらは、条件であって、理由じゃない。
「……最近、皆ちょっと安心しすぎてませんか?」
ミレイアが、帳簿を閉じながら言った。
「悪いことじゃない」
「でも……
また、取り上げられるんじゃないかって」
その不安は、正しい。
王国も、教会も、
理由のない拠点を放置しない。
だからこそ。
「理由を、作る」
俺は、即答した。
「奪えない理由を?」
「違う」
俺は、首を振る。
「奪うと困る理由だ」
その日の夕方。
自警団、古参の領民、商人トルバを呼び、
小さな会合を開いた。
「今日の話は、
この領地の“役割”についてだ」
皆が、黙って聞く。
「今の俺たちは、
“生き延びている集団”に過ぎない」
厳しい言い方だが、事実だ。
「だが――
それでは、必ず飲み込まれる」
誰も、否定しなかった。
「この領地は、
王国にとって、何になる?」
俺は、問いを投げる。
沈黙。
誰も答えられない。
「教会にとっては?」
やはり、沈黙。
「商人にとっては?」
トルバが、少し考えてから言った。
「……中継地、か?」
「半分正解だ」
俺は、頷いた。
「だが、それだけじゃ弱い」
中継地は、代替可能だ。
俺は、地図を広げた。
周辺の街道。
魔物の出没地。
王国と隣国の境界。
「ここを見てくれ」
皆の視線が集まる。
「この領地は、
物流と治安の“隙間”にある」
王国の兵は、ここまで手が回らない。
教会の結界も、網羅されていない。
商人は、常に危険を冒して通過している。
「つまり――
誰にとっても“面倒だが必要な場所”だ」
トルバが、はっとした顔になる。
「……もし、ここが安全なら」
「そう」
俺は、続ける。
「王国は、兵を出さずに治安を得られる」
「教会は?」
「魔物被害を減らしたという“成果”を得られる」
「商人は……」
「安全な街道と、補給地を得られる」
全員が、言葉を失った。
「この領地の役割は、
“守られる場所”じゃない」
俺は、はっきり言う。
「周囲を守る装置だ」
空気が、変わった。
それは、領地というより――
機能の話だった。
「だが、そのためには条件がある」
俺は、指を立てる。
「中立であること」
「どこにも、完全には与しない」
王国とも、教会とも、商人とも。
「そして、
信用があること」
武力ではない。
約束を守ること。
裏切らないこと。
「信用は、金より強い」
それは、俺自身が一番よく知っている。
「……つまり」
ドランが、低く言う。
「俺たちは、
“便利な存在”になるってことか」
「違う」
俺は、即座に否定する。
「必要不可欠な存在だ」
便利なものは、使い捨てられる。
不可欠なものは、壊されない。
その夜。
トルバが、焚き火の前で言った。
「……正直に言う」
「?」
「この発想、
普通の領主にはできない」
俺は、肩をすくめた。
「領主じゃないからな」
元・雑用科。
元・追放者。
だからこそ、
中央の論理に染まっていない。
「だが――」
トルバは、続ける。
「それをやれば、
確実に目立つ」
「承知している」
むしろ、狙いだ。
ミレイアが、小さく言う。
「……この領地、
もう戻れないですね」
「ああ」
俺は、頷く。
「もう、“辺境”じゃない」
役割を持った瞬間、
場所は“意味”になる。
意味を持つ場所は、
必ず、争いの中心になる。
(だが――)
俺は、心の中で続ける。
争われるということは、
価値があるということだ。
焚き火の炎が、静かに揺れる。
この領地は、
誰かに与えられた場所じゃない。
俺たちが、
役割を定義した場所だ。
王国が、どう見るか。
教会が、どう扱うか。
商人が、どう利用するか。
すべては、これからだ。
だが――
少なくとも一つ、確かなことがある。
この領地は、
もう“捨てられる場所”ではない。
――必要とされる場所だ。
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