第17話 守るために、武装が必要になった
問題は、数字として現れた。
人口が増え、取引が回り始め、
領地が「場所」として成立し始めた、その矢先。
ミレイアが、帳簿を閉じて言った。
「……治安関連の問題、
今週だけで七件です」
「内容は?」
「小競り合い。
物資の横流し。
夜間の無断外出」
俺は、頷いた。
(来るべき段階だ)
人が増えれば、摩擦が生まれる。
規則ができれば、破る者も出る。
そして――
罰を執行する力がなければ、規則は紙切れだ。
「……兵を置くんですか?」
ミレイアの問いに、
周囲の空気が僅かに張り詰める。
兵。
それは、この領地にとって
最も重く、最も危険な言葉だった。
「正規兵じゃない」
俺は、即答する。
「自警団だ」
ドランが、少しだけ目を細めた。
「……つまり、俺たちで守るってことか」
「ああ」
それ以上でも、それ以下でもない。
「目的は三つ」
俺は、地面に線を引く。
「一つ。
魔物の侵入を防ぐ」
一本目。
「二つ。
内部の争いを抑止する」
二本目。
「三つ。
外に“牙がある”と示す」
三本目。
ここが、最も重要だ。
「戦うためじゃない。
戦わせないための武装だ」
ドランが、低く笑った。
「……嫌いじゃない」
問題は、人選だった。
「強い奴から集める?」
ドランの問いに、俺は首を振る。
「逆だ」
「……逆?」
「まず、
規則を守れる人間だ」
視線を、領民たちに向ける。
「強さは、後から付けられる。
だが、規律は――後からは難しい」
これは、学園で学んだことだ。
強いが従わない者ほど、
組織を壊す。
自警団の募集は、限定的に行った。
・志願制
・身分不問
・規律優先
・報酬あり(食料・住居)
初日に集まったのは、
わずか八人。
「……少ないですね」
「十分だ」
俺は、断言した。
「最初は、象徴がいればいい」
訓練は、徹底して単純にした。
隊列。
合図。
退却。
剣術や武技より、
動きを揃えることを優先する。
「個人で戦うな」
俺は、はっきり言う。
「一人で強い奴は、
死にやすい」
ドランが、前に出る。
「命令は、絶対だ」
その声に、空気が締まる。
視界に、数値が浮かんだ。
【自警団結束率:形成中】
【規律遵守率:高】
(いい)
数日後。
夜の見回り中、
小規模な魔物の群れが近づいた。
以前なら、逃げるしかなかった距離。
だが――
今は違う。
「止まれ」
ドランの低い声。
松明が一斉に掲げられる。
自警団が、横一列に並ぶ。
威圧。
統制。
数は少ないが、形になっている。
魔物は、数秒こちらを窺い――
引き返した。
誰も、剣を振るっていない。
「……追い払った」
誰かが、呆然と呟く。
「それでいい」
俺は、頷いた。
「それが、武装の意味だ」
翌日。
商人トルバが、苦笑しながら言った。
「……見張りが増えたな」
「抑止だ」
「王国が嫌がるぞ」
「嫌がらせるほど、
価値が出たということだ」
トルバは、肩をすくめた。
「その通りだな」
夜。
ミレイアが、小さく言った。
「……兵がいると、
少し怖いです」
「正常だ」
俺は、否定しない。
「武装は、
常に危険を孕む」
だが――
無防備より、ずっとましだ。
「大事なのは、
誰が、何のために持つかだ」
それを、忘れなければいい。
焚き火の前で、俺は考える。
自警団ができた。
経済が回り始めた。
人が集まっている。
――もう、この領地は“小さな国”だ。
(なら、次は)
正当性だ。
力を持つ場所は、
必ず、理由を問われる。
王国に。
教会に。
周辺領主に。
俺は、静かに決めた。
次にやるべきは――
「この領地が存在していい理由」を作ること。
ただの辺境ではない。
ただの避難所でもない。
――必要とされる場所にする。
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