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追放された雑用科の俺が、辺境で領地経営を始めたら王国も教会も手出しできなくなった  作者: 空城ライド


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第14話 最初の視察官は、敵意を隠さない

 それは、予告もなくやって来た。


 昼過ぎ、領地の外れに設けた簡易見張り所から、慌てた声が上がる。


「……馬だ!

 王国の紋章を付けた馬が三騎!」


 その報告を聞いた瞬間、

 領地の空気が、ぴんと張り詰めた。


(早いな)


 商人トルバの忠告から、まだ二日も経っていない。


 つまり――

 嗅ぎつけられるのは、最初から織り込み済みだったということだ。


 正門代わりの簡易柵の前に現れたのは、三人。


 中央の男は、上質な外套を纏い、背筋を伸ばしている。

 左右には、武装した護衛。


 その立ち振る舞いだけで、格が分かる。


 俺の視界に、数値が浮かんだ。


【王国監察官】

【権限:中】

【敵意:高】

【交渉余地:低】


(……典型的だ)


 現場を締め上げるために送られる、

 “強くも弱くもない”役人。


「ここが、例の辺境領地か」


 監察官は、周囲を見渡し、露骨に鼻を鳴らした。


「ずいぶんと……賑やかだな」


 嫌味を隠す気もない。


「私は、王国監察官のバルド。

 王都より、正式な視察に来た」


「領主代理のレイン・アルトです」


 名乗ると、彼は一瞬だけ眉を動かした。


「……若い」


 またか、と思う。


「書類は?」


「こちらに」


 事前に用意しておいた帳簿を差し出す。


 食料生産量。

 人口推移。

 魔物被害の減少。


 どれも、事実だ。


 だが――

 バルドは、ほとんど目を通さなかった。


「ふん。

 数字はいくらでも作れる」


 視線が、鋭く俺を刺す。


「問題は、“正当性”だ」


(来たな)


「この領地は、王国の直轄管理放棄地だ」


 バルドは、淡々と告げる。


「君は、臨時管理者に過ぎない。

 恒久的な権限はない」


「承知しています」


「なら話は早い」


 彼は、にやりと笑った。


「この領地の管理権を、

 王国に返上してもらう」


 周囲が、ざわつく。


 ミレイアが、思わず一歩前に出かけ――

 ドランが、静かに止めた。


 俺は、表情を変えなかった。


(やはり、そう来るか)


 成功し始めた辺境は、

 王国にとって“回収対象”だ。


「理由を伺えますか」


 俺は、あくまで丁寧に聞く。


「治安維持だ」


 即答。


「君のやり方は、独断的すぎる。

 王国の管理下に戻すのが、秩序というものだ」


 建前としては、完璧だ。


 だが――

 俺の視界では、別の数値が踊っている。


【成果横取り意図:高】

【現場理解度:低】


(要するに、

 “育ったところを刈り取る”つもりだ)


「返上した場合、

 この地の人々はどうなりますか」


 俺は、静かに聞いた。


「必要に応じて、再配置する」


 それが、答えだった。


 つまり――

 切り捨てるということ。


 俺は、内心で息を吐く。


(やっぱり、同じ構造だ)


 学園と、何も変わらない。


「……分かりました」


 俺がそう言うと、

 バルドの口元が、勝ち誇ったように歪んだ。


「賢明だ」


「ただし」


 言葉を、重ねる。


「一つ、確認させてください」


「何だ?」


「返上の前に、

 現状の成果を、正式に評価する義務はありませんか?」


 バルドの眉が、僅かに動いた。


「……規定上は、あるが」


「では、評価をお願いします」


 俺は、淡々と言う。


「魔物被害の減少。

 食料生産の回復。

 人口の定着」


 帳簿を、指で叩く。


「これらは、王国の利益です」


 沈黙。


 バルドは、初めて帳簿に目を落とした。


 数秒。

 十数秒。


 その間に、俺は確信する。


(……効いている)


「……確かに、成果はある」


 バルドは、渋々認めた。


「だが、それでも権限は――」


「承知しています」


 遮らず、受ける。


「ですから、提案です」


「提案?」


「管理権を、

 条件付きで王国に委ねます」


 その言葉に、場がざわめく。


 だが、続ける。


「ただし――

 現場責任者として、俺を残す」


 バルドの目が、細くなる。


「……つまり?」


「成果が出ている間は、

 余計な介入をしない」


 簡単に言えば、

 実務は俺、名義は王国。


(向こうにとっても、悪くない)


 責任は押し付けられる。

 利益は吸える。


「……ずいぶん、図々しいな」


 バルドは、そう言いながらも、

 完全には否定しなかった。


 俺は、静かに言う。


「潰すより、使った方が安い」


 その瞬間、

 彼の頭上の数値が、わずかに変わった。


【評価:再計算】

【危険度認識:上昇】


(……届いた)


 最終的な結論は、こうだ。


 ・管理権は王国名義

 ・実務は現状維持

・三ヶ月後に再評価


 完全な勝利ではない。

 だが――


 即時没収は、回避した。


 監察官が去った後、

 ミレイアが、深く息を吐いた。


「……本当に、取られるかと思いました」


「実際、取られかけた」


 俺は、正直に答える。


「でも――」


 ドランが、低く笑う。


「向こう、ちょっと面倒そうな顔してたな」


「ああ」


 それでいい。


 面倒だと思わせた時点で、一歩前進だ。


 夜。


 焚き火の前で、俺は一人考える。


(次は、もっと露骨になる)


 王国は、様子を見る。

 教会は、別の手を打つ。


 この領地は、もう隠せない。


 だが――

 隠れるつもりも、ない。


 俺は、静かに決意する。


 奪われないためには、

 “価値”を上げ続けるしかない。


 次に来るのは、

 視察官じゃない。


 ――交渉相手だ。

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