第1話 雑用科に配属された件
この世界では、才能は生まれた時点で固定されています。
努力で覆ることはありません。
魔法の才能も、身分も、将来も。
すべては最初から決まっています。
――けれど、もし。
「王としての才能」だけが見える人間がいたら?
これは、
戦えない少年が、
世界の仕組みそのものを利用して成り上がる物語です。
王立魔導学園の大広間は、朝から異様な熱気に包まれていた。
天井から吊るされた巨大な魔導灯が、白い光を降らせる。
赤い絨毯の左右には、家紋入りの席が整然と並び、色とりどりの礼装に身を包んだ貴族子弟たちが腰掛けていた。
その最後尾。
俺――レイン・アルトは、平民席と呼ばれる粗末な椅子に座っている。
この場所に来るまで、何度も言われた。
「才能がなければ、ここでは生き残れない」
「努力でどうにかなる世界じゃない」
分かっていた。
それでも、来た。
なぜなら、この学園に入らなければ、平民に未来はないからだ。
「次。レイン・アルト」
名前を呼ばれ、俺は前に出た。
視線が集まる。
好奇、侮蔑、無関心――混じり合った視線が、肌を刺す。
判定官が無言で手をかざすと、胸元の魔導紋が淡く光った。
空中に、数値が浮かび上がる。
「魔力量……最低値」
「属性適性……なし」
「成長上限……低」
広間が、ざわつく。
そして、最後の一言。
「貴族適性……Fランク」
――次の瞬間だった。
どっと、笑い声が広がった。
「ははっ、見ろよあれ」
「F? 初めて見たぞ」
「平民枠も、ここまで落ちたか」
笑われている。
だが、不思議と胸は痛まなかった。
想定内だ。
俺には、魔法の才能がない。
ここまでは。
「……判定結果に基づき、配属を決定する」
判定官が一枚の書類をめくる。
「レイン・アルト。――《雑用科》への配属とする」
空気が、変わった。
一瞬の沈黙の後、先ほどとは質の違うざわめきが起きる。
「雑用科?」
「まだ存在していたのか」
「終わったな」
俺は、思わず顔を上げた。
雑用科。
正式な学科ですらない、学園の裏側。
授業なし。
成績評価なし。
進路保証なし。
存在理由はただ一つ。
貴族と教師が出す“汚れ仕事”を処理するため。
魔導実験の失敗処理。
危険物の廃棄。
責任の押し付け先。
――いわば、人間のゴミ箱だ。
「異議はあるか?」
形式的な問い。
俺が口を開くことはないと、分かっている声。
俺は、何も言わなかった。
言ったところで、何も変わらない。
この世界は、才能が固定されている。
努力で上限を超えることはない。
それが、常識だ。
だからこそ、誰もが納得している。
俺が最底辺であることに。
――ただ一人、俺自身を除いて。
俺の視界には、別の世界が広がっていた。
王族席。
貴族席。
教師席。
彼らの頭上に、淡い光で浮かぶ文字と数値。
【統治適性:A】
【忠誠誘導値:B】
【組織維持率:C】
誰にも気づかれていない。
俺にしか見えない。
魔法ではない。
スキルとも違う。
気づいた時には、見えていた。
最前列で微笑みを浮かべる、第一王子アルベルト。
光属性の魔力を纏い、絵に描いたような理想の王子。
だが――
【統治適性:A(成長限界)】
完璧だが、伸びない。
現状維持しかできない器。
その隣。
静かにこちらを見ている第二王子レオンハルト。
感情の読めない瞳。
【統治適性:S】
【粛清許容値:高】
……なるほど。
(この国、近いうちに血を見るな)
学園は未来の縮図。
ならば、この国の未来も、もう見えている。
「次の者」
判定官の声で、現実に引き戻される。
俺は、静かに一礼し、その場を後にした。
背中に向けられる嘲笑。
哀れみ。
完全な無関心。
だが、不思議と心は静かだった。
(雑用科、か)
誰も見ない場所。
誰も警戒しない場所。
誰も価値を見出さない場所。
――悪くない。
この国を、内側から壊すには。
俺はまだ知らない。
この配属が、王国を揺るがす始まりになることを。
ただ一つ、確信している。
この学園で、俺は最弱だ。
そして――一番よく、世界を見ている。
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