第1章 第8話――ヒロインを無視しただけで、自主覚醒イベントが始まりましたわ!?
第8話では、ついに “無視しただけでヒロイン覚醒” という
本作の中でも屈指の誤解イベントを描きました。
・無視する → 自立を促す“教え”扱い
・ミリア覚醒
・周囲が勝手に感動
・殿下がさらに好印象
という、主人公にとって地獄のフルコンボ。
勘違いが拡大するにつれ、
エリザベートの望む“悪役令嬢ムーブ”はどんどん叶わなくなっていきます。
第1章 第8話――ヒロインを無視しただけで、自主覚醒イベントが始まりましたわ!?
舞踏会で“外交級の絶賛”を受けた翌日。
私は学園の廊下で、反省していた。
(最近の私は……悪役令嬢からほど遠いですわね……)
ミリアに優しくしてしまい、
いじめを止めてしまい、
王太子の好感度が爆上がりし、
ついには外交官からスカウトされる始末。
(悪役ムーブが全部逆効果……。
せめてミリアちゃんとは“適切な距離”を取りませんと)
本来の乙女ゲームでは、
ヒロインは王太子と接近し、
それを悪役令嬢が邪魔する構図が定番。
(なのに……今のミリアちゃんは完全に私の方を向いている)
これはいけない。
ヒロイン力のバランスが崩れている。
(今日こそは、ミリアちゃんから“距離を置く”。
会話も控えて……無視するくらいでいいかもしれませんわね)
そう決心した私は、
ちょうど廊下の向こうでミリアを見つけた。
「エリザベート様ー!」
天使のように笑顔で駆けてくるミリア。
くっ……かわいい。けれど、これではいけない。
(ごめんなさいミリアちゃん……
でもこれは、あなたのためなのです!!)
私はツンと顔をそむけ、
そのままスタスタと歩き去った。
「……え?」
ミリアの声が後ろから聞こえた。
胸がズキッと痛んだが、振り返らない。
(これでいい……これでいいのよ……!
悪役令嬢はヒロインを甘やかしてはいけないの!)
その日の終わりごろ。
私は図書室に向かう途中で、
見覚えのある声を耳にした。
「ミリアさん、どうしたの?」
「落ち込んでる?」
クラリスとアイリーンの声だ。
(ミリアちゃん……やっぱり気にしてますわよね……?
ごめんね、本当に……でもあなたの成長のため……)
そのまま通り過ぎようとした時、
ミリアの力強い声が聞こえた。
「……違うんです。落ち込んでなんか……ないです!」
「え……?」
「私……エリザベート様に、甘えてばかりだったんです。
それがいけなかったって……今日、気付いたんです!」
(お、おや……?)
ミリアは拳を握りしめていた。
「エリザベート様は、
“自分の力で立ちなさい”って言いたかったんだと思います!」
(そんなこと言った覚えはありませんわよ!?
ただ無視しただけですわよ!?)
「今日、エリザベート様が私を無視したのは……
“優しさに頼りすぎないで”という意味だと思います」
(完全に誤解が深まってるぅぅぅ!!)
「だから……私、変わります。
自分の力で勉強して、努力して、
エリザベート様の期待に応えられるような人になります!」
クラリスとアイリーンが目を潤ませる。
「ミリア……立派だわ……!」
「今日から一緒に努力しましょう!」
(な、なんでこんな感動展開に!? 私、無視しただけなのに!?)
そして更に最悪なことに――
「エリザベート」
後ろからひんやりした声がした。
(げっ……殿下……!)
アレクシス殿下が静かに続ける。
「今日、ミリアに距離を置いていたな」
「い、いえその……」
「ふむ……。
無言で“自立を促す”とは、君らしい」
(いや無視しただけ!!)
「君の厳しさは、時に人を大きく成長させる。
あの時もそうだったし、今回もそうだった」
(“あの時”ってなに!? 私そんな名場面持ってませんわよ!?)
殿下は深く感嘆するように言った。
「エリザベート。
君がミリアを導いている姿……尊敬している」
(やめてぇぇぇ!!!
無視しただけで“導き手扱い”なんておかしいですわよーー!!)
その日の学園にはまた噂が広がった。
「エリザベート様、ミリアを試すために距離を取る。
結果、ミリア覚醒」
「エリザベート様の新たな教育方法“沈黙の導き”」
(違う、全部違う!!
私は悪役令嬢になりたいだけなのーーー!!)
私はついに両手で顔を覆った。
(……どうして無視しただけで、あんな成長フラグになるのよ……)
悪役令嬢への道は、今日も遠のくばかりだった。
今回もお読みいただきありがとうございます!
ミリアの好感度&成長度は加速し、
エリザベートの“悪役計画”はますます遠ざかりました。
次は 第9話:陰口を言われて怒鳴り込み → 悩み相談会化
という、またしても“善行扱い”されるイベント回です。




