第13話 女王への道(※本人の意思とは無関係)
第13話 女王への道(※本人の意思とは無関係)
道というものは、
歩こうとしてできる場合と、
気づいたらできている場合がある。
エリザベート・フォン・ローゼンクロイツは、
後者が存在することを、
今まさに身をもって学んでいた。
「……これは」
執務机の上に積まれた書類を見て、
彼女は静かに呟く。
「道、ですわね?」
書類の表紙には、
遠慮のない文字が並んでいた。
《女王制移行時の行政整理案》
《王権空白期間における暫定統治モデル》
《民意の受け皿について》
(誰が書いたのかしら)
(というか、
なぜ“移行前提”なのですの)
⸻
「……殿下」
エリザベートは、
向かいの席に座る
アレクシス王太子を見た。
「これは」
「説明を」
殿下は、
一瞬だけ視線を逸らした。
「……自然発生だ」
「何がですの?」
「全部だ」
(最悪の答え)
⸻
発端は、
民衆だった。
「女王になるなら、
ちゃんとした制度が
必要だろう?」
「王家を否定しない」
「でも、
最終判断を
任せたい」
「……ローゼンクロイツ様に」
それは、
叫びでも、暴動でもなかった。
ただの合意だった。
⸻
商人たちは、
計算した。
「判断が速い」
「約束を破らない」
「感情で揺れない」
学者たちは、
整理した。
「思想が明確」
「神格化を拒否する点が
逆に健全」
「権威に依存しない構造」
農民たちは、
もっと単純だった。
「芋を否定しなかった」
(強い)
⸻
王城の会議。
「……現時点で」
官僚が、
淡々と報告する。
「女王制を想定した
運用は、
すでに一部で
始まっています」
「誰の指示で?」
「……民衆です」
「また?」
⸻
エリザベートは、
額に手を当てた。
「わたくし、
何もしておりませんわよ?」
「はい」
官僚は、
きっぱり頷く。
「だからこそ、
信用されています」
「……意味が
分かりませんわ」
⸻
黒薔薇会。
「……エリザベート様」
マルグリットが、
そっと言う。
「これ……
もう“道”ですよね……?」
「ええ」
クレアが、
冷静に補足する。
「選択肢ではなく、
進行ルートです」
「寄り道不可」
「……ゲームでも
そんな仕様、
嫌ですわ」
⸻
リリアが、
楽しそうに言う。
「でも!」
「“女王への道”って、
響き
かっこいいです!!」
「やめてください!!」
フローラが、
ふわっと微笑む。
「皆さん、
安心してますよぉ」
「“もう大丈夫”ってぇ……」
エリザベートは、
深く息を吸った。
「……それが」
「一番、
困るのですわ」
⸻
その夜。
エリザベートは、
日記を開いた。
《女王への道が
できています》
《舗装が
丁寧すぎます》
しばらく考え、
こう書き足す。
《逃げ道が
見当たりません》
ペンを置き、
天井を見る。
「……悪役女王」
「向いている、
向いていないの
問題では
ありませんわね」
⸻
翌朝。
王城の掲示板に、
新しい文書が貼られた。
《王制に関する
国民意見聴取の実施》
その署名欄には、
まだ名前はない。
だが。
誰も、
別の名前を書く気が
なかった。




