第12話 神扱いはやめてくださいまし(※無理でした)
第12話 神扱いはやめてくださいまし(※無理でした)
最初の違和感は、
王城の正門前だった。
「……列?」
エリザベート・フォン・ローゼンクロイツは、
馬車の窓から外を見て、
目を細めた。
整然と並ぶ人々。
花束。
芋。
なぜか時計。
「……今日は、
何かの祝日でしたかしら?」
御者が、
小さく答える。
「いえ……
“謁見希望者”だそうです」
「……誰への?」
「ローゼンクロイツ様への」
(嫌な予感しかしませんわ)
⸻
広間。
机の上には、
巻物と手紙が山のように積まれていた。
「教義の確認を願います」
「聖句の解釈について」
「芋の調理法は必須か否か」
「……」
エリザベートは、
静かに立ち上がった。
「説明いたしますわ」
空気が、
ぴんと張り詰める。
⸻
「まず」
「わたくしは
神ではありません」
「預言も
啓示も
行っておりません」
「芋は、
食べたい人が
食べればよろしい」
「時計も、
信仰対象ではありません」
(時計を拝むな)
⸻
沈黙。
誰かが、
恐る恐る手を挙げた。
「……では」
「“ローゼンクロイツ様なら
どう判断するか”
という考え方は……?」
「やめてくださいまし」
即答だった。
「自分で考えなさい」
「責任も、
自分で取りなさい」
「わたくしを
使わないで」
⸻
その瞬間。
なぜか、
ざわめきが起きた。
「……おお」
「“依存するな”……」
「なんて、
厳しい教え……」
「自由を
与えている……」
(違いますわ!!)
⸻
アレクシス王太子は、
頭を抱えていた。
「……完全に」
「高位思想として
昇華している」
「殿下」
エリザベートは、
きっぱり言った。
「この状況、
王家の責任ですわ」
「なぜ
止めなかったのです?」
「……止められると
思うか?」
「思いませんわね」
(即答)
⸻
街では、
さらに事態が進行していた。
「エリザベート様は
“自立せよ”と
仰った」
「神に頼らず、
自分で判断しろ……」
「最高じゃないか」
(宗教ではなく
哲学)
⸻
黒薔薇会。
「……エリザベート様」
マルグリットが、
小声で言う。
「神格、
上がってます……」
「否定したのに?」
「はい」
クレアが、
淡々と結論を出す。
「否定が
最上位の教義になりました」
「……最悪ですわ」
リリアが、
拳を握る。
「カッコよすぎます!!」
「やめてください!!」
⸻
その夜。
エリザベートは、
日記にこう書いた。
《神扱い、
全力で否定しました》
《結果、
思想になりました》
しばらく考え、
付け足す。
《悪役女王は、
信仰を
拒絶するべきです》
《なぜ、
尊敬されるのでしょう》
ペンを置き、
天井を見上げる。
「……悪役って」
「孤独な存在では
ありませんでしたの?」
⸻
翌日。
王城に、
新たな報告が届く。
「教団の名称が
変更されました」
「“エリザベート教”から
“ローゼンクロイツ思想”へ」
エリザベートは、
静かに崩れ落ちた。
「……もっと
ひどくなってません?」
⸻
だが。
民衆は、
今日も静かに言う。
「考えろ」
「逃げるな」
「芋を食え」
それは、
祈りではない。
生活指針だった。




