第10話 女王になるなら、あなたがたの国も私のものですわよ?
第10話 女王になるなら、あなたがたの国も私のものですわよ?
その発言は、
外交会議の“雑談枠”で出た。
誰も、
議事録に残るとは
思っていなかった。
――少なくとも、
本人以外は。
⸻
「……改めてですが」
隣国の外交官が、
慎重に口を開く。
「ローゼンクロイツ様が
女王になられる場合」
「我々との
外交方針は……?」
エリザベート・フォン・ローゼンクロイツは、
椅子に深く腰掛け、
片肘をついた。
(来ましたわね)
(ここで、
もう一段
悪役を盛りましょう)
⸻
彼女は、
にこりともせずに言った。
「……女王になるなら」
一拍。
「あなたがたの国も、
私のものですわよ?」
沈黙。
完璧な沈黙。
空気が、
凍った音がした。
⸻
アレクシス王太子は、
その場で
目を閉じた。
(言った)
(本当に
言いやがった)
⸻
外交官たちは、
すぐには反応できなかった。
誰かが、
恐る恐る聞き返す。
「……それは、
比喩、でしょうか?」
「ええ」
エリザベートは、
即答した。
「影響圏、という意味ですわ」
「統治ではありません」
「干渉でもありません」
「ただ」
「私の判断基準で
付き合う、
というだけの話」
(なお、
それが一番怖い)
⸻
「裏切られません」
「嘘はつきません」
「約束は守ります」
「ただし」
彼女は、
視線を上げる。
「愚かな真似をすれば、
容赦しませんわ」
「それだけです」
⸻
数秒後。
隣国の外交官が、
深く頭を下げた。
「……理解しました」
「我が国は、
その条件を
“非常に明確”と
評価いたします」
(評価!?)
⸻
別の国の代表が、
頷く。
「境界線が
はっきりしている」
「信用できる」
「感情論がない」
(そこ!?)
⸻
エリザベートは、
内心で叫んだ。
(ちがいますわ!!)
(これは
悪役発言です!!)
(怖がるところですわ!!)
⸻
会議後。
王城の廊下で。
「……君は」
アレクシス王太子が、
疲れ切った声で言う。
「冗談の
つもりだろう?」
「もちろんですわ」
「悪役の
誇張表現ですもの」
「……各国は」
「“支配ではなく、
信頼で縛る女王”と
解釈した」
エリザベートは、
頭を抱えた。
「最悪ですわ……」
⸻
その夜。
各国の報告書には、
同じ言葉が並んだ。
『境界が明確』
『曖昧さがない』
『予測可能』
『安全』
――そして。
『女王即位後も、
関係は安定する』
⸻
黒薔薇会。
「……エリザベート様」
マルグリットが、
震え声で言う。
「それ……
侵略宣言に
聞こえました……」
「ええ」
エリザベートは、
頷いた。
「完璧な
悪役発言ですわ」
クレアが、
淡々と補足する。
「国際信用度、
最大値更新しました」
「……なぜですの?」
⸻
その夜。
日記。
《他国も
私のもの発言》
《非常に
悪役》
少し考え、
付け足す。
《冗談が
通じません》
《女王という肩書きは、
危険です》
ペンを置き、
彼女は天井を見上げた。
「……悪役女王」
「やはり、
簡単では
ありませんわね」
だが。
世界はすでに、
彼女の言葉を
**“条件提示”**として
扱い始めていた。




