第8話 国際評価?――王家は一体、何をしているのですの?
第8話 国際評価?――王家は一体、何をしているのですの?
評価というものは、
静かに積み上がる。
だが今回のそれは、
やけに派手だった。
「……各国から、
公式書簡が届いております」
外交官の声は、
明らかに弾んでいる。
「内容は――」
「“冷静かつ品格ある対応”」
「“文化と理性を両立した裁定”」
「“模範的な外交姿勢”」
その一言一句が、
部屋の空気を
妙な方向へ押し上げていく。
⸻
「……つまり」
エリザベート・フォン・ローゼンクロイツは、
書簡を読みながら、
眉をひそめた。
「国際的に、
高評価されてしまった
ということですわね?」
「はい」
即答だった。
(最悪ですわ)
⸻
アレクシス王太子は、
遠い目をしている。
「今回の件で、
我が国の信頼度は
かなり回復した」
「隣国との関係も、
むしろ良好だ」
「……それで?」
エリザベートは、
書簡を机に置いた。
「王家は、
今まで何を
していらしたのです?」
室内が、
一瞬で凍る。
⸻
「……え?」
「え、ではなくてよ」
エリザベートは、
はっきり言った。
「捏造を見抜く」
「相手を貶めず、
事実のみを示す」
「謝罪すべきところは
即座に謝る」
「当然のことですわ」
「それが、
なぜ“驚き”として
受け取られているのか」
王太子は、
思わず苦笑した。
「……それが
当然だと
言い切れるのは、
君くらいだ」
「不名誉ですわね」
⸻
外交官が、
恐る恐る口を挟む。
「その……
今回の対応は」
「“王家の判断”として
評価されています」
「……は?」
エリザベートは、
ぴたりと動きを止めた。
「ちょっと
待ってくださいまし」
「それ、
わたくしの発言ですわ」
「王家の
手柄にしないで
いただきたい」
(正論)
⸻
「それに」
彼女は、
腕を組む。
「国際評価というものは、
一朝一夕で
得られるものではありません」
「今回の件で
評価されたのは」
「“今まで、
どれだけ
出来ていなかったか”
という事実です」
痛い。
とても痛い。
⸻
アレクシス王太子は、
静かに息を吐いた。
「……耳が痛い」
「ええ」
「でしょうね」
「だから申し上げますわ」
エリザベートは、
一歩前に出る。
「わたくしが
動いて評価される前に」
「王家として
動いてくださいませ」
「さもなくば」
一拍。
「女王を
本気で
検討いたしますわよ?」
(脅し)
(しかも、
本気)
⸻
その日の夜。
各国の新聞に、
同じ見出しが躍った。
『冷静な裁定、
成熟した外交』
『この国は、
文化を持っている』
――ただし。
誰もが、
こう付け加えていた。
「あの令嬢がいる限り」
⸻
黒薔薇会。
「……エリザベート様」
マルグリットが、
小さく震えながら言う。
「完全に、
国際級でした……」
「悪役としては
失敗ですわ」
即答だった。
クレアが、
淡々とまとめる。
「国際評価、
確定しました」
「王家への信頼は
あなた経由で
回復しています」
「……なぜ
王家経由では
ないのかしら」
リリアが、
元気よく叫ぶ。
「女王エンド、
近づいてますね!!」
「近づかないで
くださいまし!」
⸻
その夜。
エリザベートは、
日記にこう書いた。
《国際評価されました》
《完全に
悪役失敗です》
少し考えて、
こう付け足す。
《王家が
仕事をしない場合》
《女王案、
現実的です》
ペンを置き、
彼女は天井を見上げた。
「……悪役女王」
「案外、
向いているのかも
しれませんわね」
その呟きが、
冗談として
受け取られなくなる日が――
静かに、
近づいていた。




