第7話「文化がない?」ですって?――それ、裁いてよろしい案件ですわね
第7話「文化がない?」ですって?――それ、裁いてよろしい案件ですわね
その噂は、
あまりにも都合よく、
そして――
あまりにも下品だった。
「……隣国の使節が、
こう発言したと」
官僚が、
一枚の書面を差し出す。
「“あなたの国には
文化がないものね”
――と」
部屋の空気が、
一瞬で冷えた。
それは、
侮辱だった。
個人ではなく、
国そのものに向けた。
⸻
エリザベート・フォン・ローゼンクロイツは、
その紙を受け取り、
一度だけ目を通す。
そして――
ふっと笑った。
「……随分と、
分かりやすいですわね」
官僚が、
戸惑う。
「と、
仰いますと……?」
「この言い回し」
「品がなさすぎますわ」
(※辛辣)
⸻
「文化がない、ですって?」
エリザベートは、
紅茶を一口飲む。
「本当に
文化のある国の人間が、
使う言葉ではありませんわ」
「それに」
「侮辱は、
もっと回りくどく
行うものです」
(悪役基準)
⸻
数時間後。
調査は、
驚くほど早く進んだ。
・発言の原文は存在しない
・通訳記録と一致しない
・書面の筆跡が不自然
「……捏造、
です」
報告を聞いた官僚の声は、
かすれていた。
「隣国ではなく、
国内の一部勢力が
書き加えたものかと」
「……なるほど」
エリザベートは、
静かに頷く。
「つまり」
「隣国を悪者にし、
内側を煽り、
混乱を生みたかった」
「三流ですわね」
⸻
その日の午後。
エリザベートは、
正式な場に姿を現した。
集められたのは、
評議会、外交官、
そして――
噂を広めた張本人たち。
「本日は」
「隣国に対する
“侮辱発言”について
確認を行います」
声は、
落ち着いていた。
だが、
逃げ場はない。
⸻
「結論から申し上げますわ」
「その発言は、
存在しません」
ざわり、と
場が揺れる。
「捏造です」
「隣国は、
そのような
下品な表現を
用いていない」
「むしろ」
エリザベートは、
一拍置く。
「文化のないのは、
事実を捏造した側ですわ」
沈黙。
完全な沈黙。
⸻
「外交とは、
相手を貶めることではありません」
「自国の格を
示すことです」
「嘘を使った瞬間、
それは失われます」
その言葉は、
鋭かった。
そして――
正しかった。
⸻
処分は、
迅速だった。
・関係者の職務停止
・外交文書の訂正と謝罪
・隣国への正式説明
騒ぎは、
不思議なほど
早く収束した。
むしろ――
評価が、
また一段上がった。
⸻
王城。
「……殿下」
側近が、
小さく言う。
「今回の対応ですが」
「“悪役的だが、
非常に美しい裁き”と
評されています」
アレクシス王太子は、
目を閉じた。
「……またか」
⸻
黒薔薇会。
「……エリザベート様」
マルグリットが、
感動したように言う。
「すごく……
怖かったです……」
「ええ」
エリザベートは、
満足そうに頷く。
「完璧な
悪役の裁きでしたわ」
クレアが、
淡々と補足する。
「外交評価、
上昇しています」
「“文化を守った”
と」
「……なぜですの?」
本気の疑問だった。
⸻
その夜。
エリザベートは、
日記に書く。
《隣国を
守ってしまいました》
《悪役としては
失敗ですわ》
少し考え、
付け足す。
《ですが》
《捏造は、
嫌いです》
ペンを置き、
彼女は呟く。
「……悪役にも、
流儀がありますもの」
その流儀が、
また一つ、
国の信用を
積み上げたことを――
彼女は、
最後まで理解しなかった。




