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『悪役令嬢になりたいのに、全部善行扱いされてしまうんですが!?』  作者: ゆう
王都編

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第4話 小麦を食べないで芋を食べればよろしいのでは?

第4話 小麦を食べないで芋を食べればよろしいのでは?


その発言は、

女王妄想会から三日後、

王城の控えの間で生まれた。


「……最近、

 民衆の不満が増えております」


報告役の官僚が、

慎重に言葉を選びながら告げる。


「小麦の価格高騰が主な原因です」


「不作の影響もあり、

 現在市場には――

 質の悪い小麦が

 大量に出回っておりまして……」


エリザベート・フォン・ローゼンクロイツは、

その話を聞きながら、

小さく首を傾げた。


「……それ、

 本当に“食べ物”ですの?」


官僚が、

言葉に詰まる。


「い、いえ……

 検査をすると、

 穂は立派でも、

 実の詰まっていない麦が多く……」


「粉にしても

 量が取れず、

 栄養価も低い状態です」


「……つまり」


エリザベートは、

あっさり言った。


「見た目だけの麦を、

 高値で売りつけている」


「詐欺ですわね」


(直球)


部屋が、

静まり返った。



「で、ですが……」


官僚が、

慌てて続ける。


「民衆は小麦を

 主食としておりますし……」


「小麦がなければ、

 不満が……」


その瞬間。


エリザベートは、

心底不思議そうな顔をした。


「……なぜですの?」


官僚たちが、

凍りつく。


「小麦がなければ、

 他のものを

 食べればよろしいでしょう」


(来ました)


(悪役発言)



エリザベートは、

淡々と続ける。


「民衆は、

 貧乏なのでしょう?」


「なら」


「高値の小麦に

 執着する必要は

 ありませんわ」


「芋を食べれば

 よろしいのでは?」


完全沈黙。


空気が、

石のように固まった。


(言えましたわ)


(これは確実に、

 嫌われます)


エリザベートは、

内心で満足した。



「芋は育ちやすく、

 保存もききます」


「腹持ちも良い」


「中身のない麦を

 粉にして誤魔化すより、

 よほど誠実ですわ」


「空っぽの麦を

 高値で売る方が、

 よほど残酷でしょう?」


その一言に、

数人の官僚が

はっと顔を上げた。



数日後。


王都の市場では、

奇妙な変化が起きていた。


・粗悪な小麦の流通停止

・麦の検査基準の強化

・芋の流通量の急増


「穂ばかり立派で

 中身のない麦より、

 芋の方が腹が満たされる」


そんな声が、

自然と広がる。


さらに。


質の悪い麦を

高値で売りつけていた商人たちが、

一斉に摘発された。


「穂だけ立派で

 実のない麦を

 正規品と偽って流通」


「価格操作」


「詐欺的取引」


罪状は、

山のように出てきた。



王城。


「……結果として」


官僚が、

震える声で報告する。


「食料事情は

 改善しています」


「民衆の不満も

 減少傾向です」


アレクシス王太子は、

頭を抱えた。


「……あの発言で?」


「はい」


「“芋を食べればいい”

 という、

 あの……」


「悪役発言で?」


「はい……」


殿下は、

深くため息をついた。


「……国が、

 現実を直視し始めた」



黒薔薇会。


「……エリザベート様」


マルグリットが、

おずおずと言う。


「とても

 ひどい発言だったと

 思うのですが……」


「ええ」


エリザベートは、

頷いた。


「完璧な悪役でしたわ」


クレアが、

淡々と補足する。


「結果として

 詐欺が減り、

 栄養状態が改善しています」


「支持率、

 また上がりました」


「……なぜですの?」


本気の疑問だった。



その夜。


エリザベートは、

日記にこう書いた。


《穂だけ立派で

 中身のない麦は、

 嫌いですわ》


《芋発言は、

 悪役として

 かなり良い出来》


少し考えて、

付け足す。


《女王になる前に、

 もう一段

 強い悪役を

 試す必要がありますわ》


その決意が、

また国を動かすことになるのは――

言うまでもない。


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