第3話 悪役令嬢より、悪役女王の方が向いている気がしてきましたわ
第3話 悪役令嬢より、悪役女王の方が向いている気がしてきましたわ
黒薔薇会の茶会は、
いつも通り穏やかに始まった。
紅茶は香り高く、
焼き菓子は甘さ控えめ。
――空気だけが、
やや重い。
「……エリザベート様」
マルグリットが、
恐る恐る口を開いた。
「本日の王都の噂なのですが……」
「ええ、
“女王即位を検討中”でしょう?」
即答だった。
マルグリットは、
息を呑む。
「ご存じで……?」
「ええ。
廊下で三回、
書類で二回、
侍女が一回、
沈黙で一回」
「計七回ほど
感じましたわ」
(数えている)
⸻
「すごいですぅ……」
フローラが、
目を輝かせる。
「“女王なら考えてあげなくもなくてよ”
って……
すごく、
悪役っぽかったですよぉ……!」
「……そう?」
エリザベートは、
カップを傾ける。
「嫌味と拒否を
丁寧に言っただけですわ」
クレアが、
淡々と告げる。
「発言後、
支持率が三段階上昇しています」
「王妃拒否より
女王容認の方が
評価されるのは
理論的におかしいですが」
「現実です」
「……現実、
怖いですわね」
⸻
リリアが、
身を乗り出した。
「でも!」
「女王って、
悪役っぽくないですか!?」
「絶対、
ラスボス感ありますよ!!」
「……ラスボス」
エリザベートは、
その言葉を
口の中で転がす。
(ラスボス……)
(嫌われて、
恐れられて、
最後に倒される……)
(……理想ですわね)
⸻
「……あの」
セシリアが、
静かに言った。
「一応確認するけど」
「本気じゃないわよね?」
エリザベートは、
即答しなかった。
その代わり、
机に肘をつき、
頬に指を当てる。
「……仮定の話ですわ」
「もし」
「悪役令嬢という立場が
“中途半端”だから
評価されるのだとしたら」
「もっと、
高い位置に立てば」
「完全に
嫌われる可能性が
あるのでは?」
黒薔薇会が、
静まり返る。
⸻
「つまり……」
クレアが、
慎重に言葉を選ぶ。
「悪役令嬢は
“近すぎる”」
「悪役女王なら
“遠い”」
「距離が生まれ、
恐怖が成立する」
「……理論としては、
筋が通っています」
「通っていますよね!?」
エリザベートの目が、
きらりと光った。
(来ましたわ)
(突破口ですわ)
⸻
マルグリットが、
震える声で言う。
「で、
でも……
女王って……」
「責任、
重くないですか……?」
「ええ」
エリザベートは、
あっさり頷く。
「その分、
嫌われ甲斐がありますわ」
(発想が逆)
⸻
フローラが、
ふわっと微笑む。
「でもぉ……
エリザベート様が
女王だったら……」
「安心しちゃう気が
しますぅ……」
「それは
却下ですわ」
即答だった。
「安心されては
困ります」
⸻
リリアが、
拳を握る。
「でも!
女王エリザベート様が
玉座に座って」
「“静かにしなさい”
って言ったら!」
「絶対、
みんな黙ります!!」
「……黙るでしょうね」
セシリアが、
遠い目をする。
「黙りすぎて
逆に信仰が始まりそう」
⸻
エリザベートは、
深く息を吸い、
そして吐いた。
「……まだ、
妄想段階ですわ」
「実行するとは
言っていません」
(※すでに
目が本気)
⸻
その頃、王城。
「……殿下」
側近が、
おそるおそる報告する。
「黒薔薇会で、
“女王案”について
議論があった模様です」
アレクシス王太子は、
静かに天井を仰いだ。
「……議論?」
「はい。
前向きな」
「……そうか」
(妄想で
国が動く段階に
入ったか)
⸻
その日の夜。
エリザベートは、
日記にこう書いた。
《悪役令嬢は、
どうも評価されすぎる》
《悪役女王なら、
もしかして
ちょうどいいのでは?》
少し考えて、
付け足す。
《要検討》
その文字が、
どれほど危険か。
彼女は、
まだ知らない。
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