第2話 王妃は嫌ですわ。女王なら……考えてあげなくもなくてよ?
第2話 王妃は嫌ですわ。女王なら……考えてあげなくもなくてよ?
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その発言は、
会議の終盤、
誰もが「そろそろ穏便に終わるだろう」と思っていた
まさにその瞬間に飛び出した。
「……ローゼンクロイツ嬢」
年配の評議員が、
慎重に言葉を選ぶ。
「改めて申し上げますが、
王妃という立場は――」
「嫌ですわ」
即答だった。
一秒も、
迷いがない。
会議室の空気が、
ぴたりと止まる。
「……は?」
誰かが、
思わず声を漏らした。
エリザベート・フォン・ローゼンクロイツは、
背筋を伸ばしたまま、
涼しい顔で続ける。
「王妃、という肩書きが
どういう意味を持つのかは
理解しておりますわ」
「理解した上で、
お断り申し上げます」
(来ました、
問題発言)
アレクシス王太子は、
内心でそう呟いた。
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「理由を、
お聞かせ願えますか」
別の評議員が、
恐る恐る尋ねる。
エリザベートは、
一度だけ、
小さく息を吐いた。
「王妃とは」
「王の隣に立つ存在ですわ」
「ですが、
わたくしは」
「誰かの“隣”に
立つつもりはありません」
その言い切りに、
ざわり、と空気が揺れる。
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「それに」
彼女は、
ちらりと殿下を見た。
「誤解なさっているようですが」
「わたくし、
おじさんの王や
皇太子と結婚する気は
ありませんの」
(おじさん言うな!!)
誰かの心の叫びが、
確実に存在していた。
アレクシス王太子は、
こめかみを押さえる。
「……年齢の話ではなく」
「そういう問題ですわ」
ばっさりだった。
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会議室は、
完全に沈黙。
その中で、
エリザベートは
ふっと視線を上げ、
まるで思いついたように言った。
「……ただし」
全員が、
身を乗り出す。
(※この国の未来が
一言にかかっている音)
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「もし」
「本当に、
この国が」
「判断する者を
必要としているのなら」
彼女は、
指先で机を軽く叩いた。
「王妃、ではなく」
一拍。
「女王なら」
さらに一拍。
「……なってあげなくも
なくてよ?」
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沈黙。
理解。
遅れて、
爆発。
「じょ、女王!?」
「前例が――!」
「制度が――!」
「いや待て、
理屈としては――」
会議室は、
一瞬で阿鼻叫喚になった。
アレクシス王太子は、
頭を抱えた。
(言った)
(ついに、
言ってしまった……)
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当の本人は、
まったく気にしていない。
「もちろん」
「これは、
譲歩ですわ」
「本来なら、
どれもお断りですもの」
(譲歩の方向性が
おかしい)
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その日の夕方。
王都では、
とんでもない速度で
噂が走った。
「ローゼンクロイツ様、
女王即位を検討中らしい」
「王妃拒否だって」
「いや、
“女王ならOK”だそうだ」
「強すぎない?」
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黒薔薇会の茶会。
「……エリザベート様」
マルグリットが、
震える声で言った。
「や、
やりすぎでは……?」
「そう?」
エリザベートは、
紅茶を一口。
「悪役令嬢らしく
振る舞ったつもりですわ」
クレアが、
静かに断言する。
「評価、
跳ね上がってます」
リリアが、
目を輝かせた。
「さすがです!!
ボス!!」
セシリアは、
天井を仰いだ。
「……この国、
もう逃げ場ないわね」
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エリザベートは、
首を傾げる。
「?」
「何か、
おかしなことを
言いましたかしら」
誰も、
答えられなかった。
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その夜。
王城の書類に、
新しい項目が追加される。
《女王制移行案(非公式)》
《起草理由:ローゼンクロイツ嬢の発言を受けて》
エリザベートは、
それを見て、
本気で眉をひそめたという。
「……本当に」
「悪役令嬢、
向いていませんわね」




