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『悪役令嬢になりたいのに、全部善行扱いされてしまうんですが!?』  作者: ゆう
王都編

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第28話:名前が止められない

第28話:名前が止められない


噂というものは、

最初は囁きだ。


次に、

確信めいた声になる。


そして最後に――

誰も否定しなくなる。


その段階に入ったとき、

噂はもう、噂ではない。



「……殿下」


執務室で、

側近が静かに声をかけた。


「本日の評議会ですが」


アレクシス王太子は、

嫌な予感しかしない顔で、

書類を受け取る。


「……言わなくていい」


「ですが」


「言わなくていい」


(言わなくていいが、

 言うんだろう)


覚悟を決めて、

殿下は続きを促した。



「“調整役”として、

 ローゼンクロイツ嬢の名が

 正式に議事録に残りました」


「……正式?」


「はい」


「また、

 各派閥から

 “彼女が立ち会うなら参加する”

 という条件が出ています」


殿下は、

ゆっくりと椅子に深く座り直した。


「……止められるか?」


側近は、

目を逸らした。


「正直に申し上げますと」


「難しいかと」


「理由は?」


「全員が」


「“殿下より公平”と」


沈黙。


その言葉は、

あまりにも重かった。



一方、その頃。


エリザベートは、

黒薔薇会の集まりで

紅茶を飲んでいた。


「……最近、

 視線が多いですわね」


「ええ」


クレアが即答する。


「増えてます」


「数も、質も」


マルグリットは、

おどおどしながら言った。


「エ、エリザベート様……」


「廊下で、

 “王妃様”って……」


「聞こえました」


フローラが、

困ったように微笑む。


「冗談、

 ですよねぇ……?」


エリザベートは、

カップを置いた。


「……皆さま」


「落ち着いてくださいまし」


(来ました、

 本人だけ冷静モード)


「それは」


「責任を押し付けるための、

 悪質な噂ですわ」


「嫌われ役を、

 私にまとめているのです」


セラフィーナが、

机を叩いた。


「違う!」


「それ、

 評価の集中だ!」


「……?」


エリザベートは、

本気で分からない顔をした。



その日の夕方。


王都のサロン。


貴族たちの会話は、

すでに隠す気がなかった。


「調整役は、

 あの方で決まりでしょう?」


「感情に流されない」


「忖度しない」


「殿下の隣に立つなら、

 最適ですわ」


誰かが、

ふと口にした。


「……王妃、

 という意味で」


一瞬、

空気が止まる。


だが――

否定はなかった。



その夜。


殿下は、

一人で書類を見ていた。


否定文案。

注意喚起。

火消し文。


すべてが、

虚しく見える。


「……違う」


「これは、

 そんな話じゃない」


だが、

机に積まれた要望書は、

彼を黙らせた。


「“ローゼンクロイツ嬢が

 将来を見据えて動いているのなら

 我々も協力する”」


殿下は、

頭を抱えた。


「……誰も」


「本人に、

 確認してないのが

 一番怖い……」



同じ頃。


エリザベートは、

日記をつけていた。


《本日》

《また、視線が集まりました》

《噂も増えています》


少し考えて、

こう書き足す。


《きっと》

《“嫌われ役”が足りないのですわ》


ペンを置き、

満足そうに微笑む。


《もう一段、

 強く出る必要がありますわね》


その一文が、

どれほど危険か。


彼女だけが、

まったく理解していなかった。


――翌日。


王城では、

ついに言葉が使われ始める。


「王妃候補」


それはもう、

噂ではなかった。


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