第27話:エリザベート、火消し役に任命される
第27話:エリザベート、火消し役に任命される
広場の一件から、三日。
王都は、
目に見えて変わっていた。
誰かが強く言いすぎれば、
誰かが誰かを追い詰めれば、
必ずこう囁かれるようになったのだ。
「……ローゼンクロイツ様なら、
どう仰るかしら」
その言葉が出た瞬間、
場の空気が一段落ち着く。
エリザベート本人は、
その事実を知らない。
なぜなら彼女は今、
呼び出しに追われていたからだ。
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「……またですの?」
手渡された招待状を見て、
エリザベートは小さく眉を寄せた。
差出人は、
貴族評議会の一部門。
内容は、
実に曖昧だ。
――「調整についてご相談したく」
(……つまり)
(面倒事ですわね)
エリザベートは、
静かに納得した。
(嫌われ役に、
選ばれましたのね)
悪役令嬢として、
正しい評価だ。
そう思って、
彼女は断らなかった。
⸻
評議会の小会議室。
集まっていたのは、
派閥も立場も異なる貴族たち。
誰もが、
どこか疲れた顔をしている。
「……お越しいただき、
ありがとうございます」
年配の貴族が、
深く頭を下げた。
エリザベートは、
一瞬、目を瞬かせた。
「……いえ」
(最初から、
謝られるのは珍しいですわね)
⸻
議題は、
王都の混乱だった。
改革派と反改革派。
声の大きさ。
責任の所在。
誰もが、
自分の立場を守りたい。
だが、
言い合いはしたくない。
だから――
第三者が必要だった。
「……ローゼンクロイツ嬢」
「あなたなら、
どうお考えになりますか」
エリザベートは、
少し考えた。
そして、
あっさりと言った。
「どちらも、
間違っていませんわ」
場が、
静まり返る。
「ですが」
扇子を閉じ、
視線を上げる。
「どちらも、
美しくありません」
「覚悟があるなら、
相手の反発も
受け止めるべきです」
「それができないなら、
声を小さくすることですわ」
誰も、
反論できなかった。
それは、
敵も味方も切り捨てる言葉だった。
⸻
会議が終わったあと。
廊下で、
若い貴族が小声で言う。
「……怖い方だ」
「でも、
公平だった」
「忖度がない」
「王家より、
王家らしい」
その評価が、
一気に広がる。
⸻
その夜。
アレクシス王太子は、
報告書を読みながら、
深く息を吐いた。
「……調停」
「評議会から、
正式に依頼が来ています」
「“ローゼンクロイツ嬢を
今後も立ち会わせたい”と」
殿下は、
額を押さえた。
「……もう」
「偶然ではないな」
⸻
一方。
エリザベートは、
日記をつけていた。
《本日》
《貴族の方々の間に入りました》
《両方から、
少し嫌われた気がします》
満足そうに、
ペンを止める。
《悪役令嬢として、
役割が増えましたわ》
彼女は、
まったく気づいていなかった。
――王都ではすでに、
こう囁かれていることに。
「ローゼンクロイツ様がいるなら、
争いは大事にならない」
「王妃にするなら、
ああいう方だ」
評価は、
もう「令嬢」の枠を超えていた。
だが、
本人だけが知らない。
自分が今、
王都の“安全装置”になりつつあることを。
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