第24話:殿下、黒薔薇会と手を組む
第24話:殿下、黒薔薇会と手を組む
アレクシス王太子は、
人生で初めて、同盟の意味を間違えた。
それは軍事でも外交でもなく、
もっと切実で、もっと個人的な理由だった。
――胃が、限界だった。
「……確認する」
静かな応接室で、
殿下は低い声で言った。
「君たちは」
黒薔薇会の面々を、
一人ずつ見渡す。
「ローゼンクロイツ嬢を、
止めに来たのか?」
セシリアが、
即答した。
「正確には」
「“止めたいけど、
止まらないから、
一緒に走るしかない”わね」
殿下は、
目を閉じた。
(最悪の答えだ)
⸻
マルグリットが、
おずおずと一歩前に出る。
「あ、あの……
殿下……」
「エリザベート様は……
その……
本気で悪役を
目指していらっしゃるだけで……」
「結果が、
ああなっているだけで……」
アレクシスは、
ゆっくりと頷いた。
「理解している」
(理解は、している)
(対処法が、
存在しないだけだ)
⸻
クレアが、
資料を一枚差し出す。
「現在、
“ローゼンクロイツ派”と
自称する集団が
三つに分裂しています」
「……分裂?」
「はい」
「理論派」
「精神論派」
「なんとなく派」
殿下は、
頭を抱えた。
「なんだそれは……」
「共通点は、
全員が
“エリザベート様の
言葉を誤解している”
という点です」
「……地獄だな」
⸻
リリアが、
拳を握って叫ぶ。
「殿下!!」
「このままじゃ、
エリザベート様が
神様みたいになる!!」
「それはそれで、
悪役じゃない!!」
殿下は、
その言葉にだけ、
強く頷いた。
「同意する」
⸻
フローラが、
おそるおそる言う。
「えっと……
エリザベート様、
今はとても
ご機嫌ですよぉ……」
「それが、
一番まずい」
殿下と黒薔薇会、
同時に言った。
沈黙。
この瞬間、
彼らは悟った。
――利害が一致している。
⸻
「……協力しよう」
アレクシスが、
深く息を吐いて言った。
「目的は一つだ」
「ローゼンクロイツ嬢が、
これ以上
“成功体験”を積まないようにする」
セラフィーナが、
腕を組む。
「つまり」
「暴走を、
管理するってことか」
「言い方は
選んでほしい」
殿下は、
疲れた笑みを浮かべた。
⸻
そこへ。
「……あら?」
全員が、
一斉に振り向いた。
扉の前に、
エリザベート・フォン・ローゼンクロイツが立っていた。
「皆さま、
お揃いですのね」
「何か、
悪いことでも?」
全員が、
一瞬で固まる。
(聞かれたか?)
(聞かれてないよな?)
(いや、
この距離は……)
殿下は、
覚悟を決めて立ち上がった。
「……君のことで
話し合っていた」
「まあ」
エリザベートは、
嬉しそうに微笑む。
「やはり、
注目されていますのね」
(違う)
(違います)
黒薔薇会全員の
心の声が、
完全に一致した。
⸻
セシリアが、
咳払いをする。
「エリザベート」
「しばらくの間、
単独行動は控えましょう」
「……なぜですの?」
クレアが、
淡々と告げる。
「被害が、
拡大します」
「……?」
エリザベートは、
少し考えてから言った。
「つまり」
「皆さま、
わたくしの
“悪役修行”に
付き合ってくださる、
ということですわね?」
全員が、
言葉を失った。
(……前向きすぎる)
殿下は、
諦めたように頷いた。
「……そういうことに
しておこう」
エリザベートは、
満足そうに微笑んだ。
「まあ」
「心強いですわ」
こうして、
王太子と黒薔薇会は、
史上最も不安定な同盟を結んだ。
――目的:
悪役令嬢を、
これ以上
成功させないため。
なお、
本人だけが
前向きだった。
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