第23話:黒薔薇会、全力で止めに入る
第23話:黒薔薇会、全力で止めに入る
結論から言うと。
黒薔薇会は、
全会一致で危機感を覚えた。
「……派閥が、生まれました」
クレアのその一言で、
集会室の空気が凍った。
「は、派閥……ですか?」
マルグリットが、
おずおずと聞き返す。
「ええ」
クレアは、
淡々と続けた。
「“ローゼンクロイツ派”」
「……それは」
「エリザベート様の
発言と姿勢を支持し、
同じ行動規範で動く集団です」
リリアが、
勢いよく立ち上がった。
「それ、
もう悪役じゃない!!」
「リーダーだ!!」
セシリアは、
腕を組んだまま天井を見る。
「……最悪ね」
「本人に、
その自覚は?」
全員が、
無言で首を振った。
⸻
問題は、
エリザベート本人だった。
彼女は今、
別室で紅茶を飲んでいる。
しかも、
機嫌がいい。
――これが一番まずい。
「……行きましょう」
セラフィーナが、
短く言った。
「今すぐだ」
「これ以上、
成功体験を
積ませたら終わる」
全員が、
深く頷いた。
⸻
部屋の扉を開けると、
そこにはいつもの光景があった。
エリザベート・フォン・ローゼンクロイツ。
優雅に座り、
扇子を片手に、
紅茶を楽しんでいる。
「……あら?」
彼女は、
黒薔薇会の面々を見て
にこやかに微笑んだ。
「皆さま、
どうなさいましたの?」
その無垢な声に、
全員の覚悟が
一瞬、揺らいだ。
(……止めるの、
気まずい)
だが、
セシリアが一歩前に出る。
「エリザベート」
「少し、
話があるわ」
「ええ。
どうぞ?」
――この温度差。
⸻
最初に口を開いたのは、
クレアだった。
「……“線を引く”
という発言ですが」
「はい」
「現在、
“指導者の宣言”として
解釈されています」
エリザベートは、
きょとんとした。
「……そうですの?」
「はい」
「完全に」
マルグリットが、
慌てて補足する。
「エ、エリザベート様は
嫌われるために
おっしゃったのですよね……?」
「ええ」
即答だった。
「そのための線引きですわ」
セラフィーナが、
額に手を当てる。
「……ああ」
「やっぱり、
ズレてる」
⸻
フローラが、
恐る恐る声を出す。
「えっと……
みなさん、
“選ばれた”って
思ってますよぉ……」
「……何がですの?」
「ついて行く覚悟が
あるかどうか、
試されたって……」
沈黙。
エリザベートの
思考が、止まった。
「……つまり」
ゆっくりと、
言葉を選ぶ。
「距離を取れ、
という意味で
申し上げたのに……?」
「はい」
「はい」
「はい」
全員、
即答だった。
「……ついて来られましたの?」
セシリアが、
遠い目をした。
「ええ」
「しかも、
自発的に」
⸻
リリアが、
叫ぶ。
「エリザベート様!!」
「これはもう、
悪役じゃありません!!」
「カリスマです!!」
「……そんな」
エリザベートは、
扇子で口元を隠した。
「困りますわ」
「わたくし、
嫌われたいのですわよ?」
セラフィーナが、
低く言った。
「……無理だ」
「今のあんたは、
無理」
⸻
クレアが、
静かに結論を出す。
「このままでは、
“改革の象徴”から
“精神的指導者”へ
移行します」
「……それは」
「完全に、
逃げ場がなくなります」
マルグリットは、
涙目だった。
「エリザベート様……
どうして……
どうしてこんなに
かっこよく……」
「それ、
褒めてますの?」
「はい……!」
(……駄目ですわね)
⸻
エリザベートは、
深くため息をついた。
「……分かりましたわ」
黒薔薇会の全員が、
身を乗り出す。
「では」
彼女は、
静かに宣言した。
「次は、
本当に嫌われる
手段を考えますわ」
全員が、
同時に叫んだ。
「それが一番危険!!」
こうして黒薔薇会は、
正式に決断した。
――エリザベートを、
一人で動かしてはいけない。
だが、
当の本人は
前向きだった。
(……まだ、
手はありますわ)
その笑顔に、
全員が震えた。
――次回。




