第17話:なぜか支持されました
第17話:なぜか支持されました
結論から申し上げると――
王都は、また勘違いした。
しかも今回は、
本人が明確に「悪役として嫌われに行く」と宣言した直後である。
これはもう、
王都側の責任と言っていい。
⸻
エリザベート・フォン・ローゼンクロイツが
「嫌われに行きますわ」と言ったその日の夜。
王都の各サロンでは、
同時多発的に“反省会”が始まっていた。
「……聞いた?」
「聞きましたわ」
「“嫌われに行く”ですって」
「つまり……」
誰かが、慎重に言葉を選ぶ。
「……あの方は、
私たちが萎縮していることに
気づいていらした、ということ?」
沈黙。
それは、
王都が一番触れたくなかった可能性だった。
「しかも、
それを正面から言った」
「遠回しでもなく」
「皮肉でもなく」
「……堂々と」
別の令嬢が、
小さく息を吐いた。
「それって……
相当、覚悟が要ることでは?」
「嫌われる覚悟、ですものね」
「普通は、
好かれたいでしょう?」
「ええ。
でも、あの方は――」
全員が、
同じ結論に辿り着いた。
――気高い。
⸻
翌朝。
王城に、
謎の報告が殺到した。
「殿下!」
「どうした!」
「ローゼンクロイツ嬢の件ですが……」
「嫌われに行った、
という話なら聞いている」
「その……
支持が増えています」
沈黙。
「……何だって?」
側近は、
資料を差し出しながら言った。
「“正直で潔い”」
「“貴族らしい覚悟”」
「“あそこまで言い切れるのは凄い”」
「……それは」
「はい」
「全部、好意的な評価です」
アレクシスは、
椅子に深く腰を下ろした。
「……王都は」
「はい」
「本当に、
話を聞かないな」
⸻
一方その頃。
エリザベート本人は、
満足げだった。
サロンでは、
彼女が意図的に
“悪役ムーブ”を重ねている。
あえて厳しい言葉。
あえて距離を詰める。
あえて、容赦しない物言い。
「曖昧ですわね」
「覚悟が足りませんわ」
「中途半端は、
一番美しくありません」
――完璧な悪役令嬢。
……のはずだった。
だが、
令嬢たちの反応が、
おかしい。
「……勉強になりますわ」
「その通りです」
「はっきり言ってくださって、
ありがとうございます」
(……あら?)
エリザベートは、
内心で首を傾げた。
(泣く方が一人くらい
いらっしゃると思いましたのに)
(……誰も泣きませんわね)
むしろ、
目が輝いている。
⸻
噂は、
瞬く間に広がった。
・「厳しいが公平」
・「媚びない」
・「本音で話してくれる」
王都が、
今まで無意識に避けてきた存在。
それを、
エリザベートが
真正面から体現してしまったのだ。
結果。
「……ローゼンクロイツ嬢」
「はい?」
「次回の集まりも、
ぜひご意見を……」
(……あら?)
「ご指導いただけると、
心強いですわ」
(……ええ?)
いつの間にか、
彼女は――
“相談役”扱いになっていた。
⸻
その報告を受けたアレクシスは、
無言で天井を仰いだ。
「……嫌われに行って」
「はい」
「支持される……?」
「はい」
「……理不尽だな」
側近は、
真顔で頷いた。
「ですが、
非常に王都らしい結末です」
「どういう意味だ」
「覚悟を見せた者を、
王都は結局評価します」
アレクシスは、
目を閉じた。
(……彼女は)
(本当に、
この街の“地雷”ばかり
正確に踏み抜いていく)
⸻
その日の夕方。
エリザベートは、
紅茶を飲みながら呟いた。
「……不思議ですわね」
「何がでしょうか?」
「嫌われに行ったのに、
妙に話しかけられますの」
侍女は、
とても言いづらそうに答えた。
「それは……
“信頼”と呼ばれるものでは?」
エリザベートは、
一瞬だけ固まり――
すぐに扇子で口元を隠した。
「……困りましたわね」
悪役令嬢としては、
大失敗。
王都的には――
大成功だった。
こうして王都は、
また一つ勘違いを重ねる。
――“悪役令嬢”は、
怖いほど、頼れる。
それが、
エリザベートの望んだ評価ではないことを、
誰も理解していないまま。
――続きますわ。




