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『悪役令嬢になりたいのに、全部善行扱いされてしまうんですが!?』  作者: ゆう
王都編

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第13話:王都、基準を作って盛大に滑る

第13話:王都、基準を作って盛大に滑る


王都はついに決意した。


「……基準を作ろう」


その瞬間、会議室にいた全員が思った。

(あ、これ絶対に悪手だ)

だが同時に、誰も止めなかった。


なぜなら相手は、

何もしていないのに王都を混乱させる令嬢だからである。


「整理します」


書記が紙を広げる。


「ローゼンクロイツ嬢の最近の行動です」


・紅茶を飲む

・庭園を歩く

・立ち止まる

・また紅茶を飲む


「……以上です」


「……それだけ?」


「それだけです」


沈黙。


誰かが小さく言った。


「……平和だな」


「平和すぎる」


「だから困っている」


全員が深く頷いた。


王都では、

平和=異常事態

なのである。


「つまり」


年配の貴族が腕を組む。


「彼女は、

 王都的に“読めなさすぎる”」


「はい」


「では基準を設けよう」


(あ、やっぱり行くんだな)



こうして誕生した

暫定・ローゼンクロイツ基準。


・行動は即報告

・深読みは禁止

・考察も禁止

・慌てたら負け


紙の上では完璧だった。


問題は、

五分後に発生した。


「報告!」


「何だ」


「ローゼンクロイツ嬢が――

 立ち上がりました!」


「……目的は?」


「不明です!」


「深読みするな」


「はい!」


沈黙。


「……通常行動だな?」


「……はい」


一同、頷く。


――三十秒後。


「報告!」


「今度は何だ!」


「ローゼンクロイツ嬢、

 方向を変えました!」


「……どの程度?」


「三歩です!」


「深読みするなと言っただろう!」


「ですが三歩です!」


「三歩は通常だ!」


「了解です!」


――さらに一分後。


「報告!」


「……言え」


「ローゼンクロイツ嬢、

 ベンチに座られました!」


「……紅茶は?」


「持っています!」


「……通常行動だな?」


「……通常行動です」


アレクシスは、

静かに机に額を打ちつけた。


(基準とは)


(何だったのか)



一方その頃。


庭園。


エリザベートは、

いつも通り紅茶を飲んでいた。


「今日は風が心地よいですわね」


その一言で、

周囲の護衛と役人が一斉に硬直する。


(風……?)

(比喩か?)

(情勢の暗喩?)

(いや考えるな考えるな考えるな)


――深読み禁止。


だが、

考えるなと言われるほど考えるのが王都である。


結果。


誰も動かない。

誰も声を出さない。

誰も近づかない。


ただ全員が、

全力で「何も起きていない顔」をしていた。



夕刻。


再び会議室。


「……結論を」


書記が震える声で言った。


「ローゼンクロイツ基準は……」


「機能しなかったな?」


「いえ」


「?」


「基準を守ろうとするほど、

 混乱が増えました」


誰かが呻いた。


「……逆効果じゃないか」


「はい、

 見事に」


そのとき、

アレクシスが疲れ切った声で呟いた。


「……もういっそ、

 彼女を基準にしたほうが早いのでは?」


沈黙。


全員が一斉に顔を上げる。


「殿下」


「それは」


「王都の敗北宣言では?」


アレクシスは、

ゆっくりと天井を見上げた。


「……既に負けている気がする」


誰も否定しなかった。



同じ頃。


エリザベートは、

紅茶を飲み終え、立ち上がる。


「そろそろ戻りますわ」


その瞬間。


「動いた!」

「通常行動だ!」

「深読み禁止!」

「だが警戒は怠るな!」


王都は、

今日も全力で空回りしていた。


本人は、

一切知らないまま。


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