王都編・第11話 包囲されましたわね(※悪役としては順調です)
王都編・第11話 包囲されましたわね(※悪役としては順調です)
結論から申し上げますと――
王都は、決断しました。
(ええ)
(とても王都らしい決断ですわ)
――囲おう。
――管理しよう。
――刺激しないようにしよう。
(……つまり)
(“触らずに、逃がさず”ですわね)
朝一番で、
わたくしはそれを察しました。
理由は単純。
(……護衛、増えましたわね)
昨日まで三名だった随行が、
今朝は六名。
しかも全員、
“守る”というより
“監視”の姿勢。
(ええ)
(悪くありませんわ)
(これは、
悪役令嬢として
かなり上出来です)
⸻
王城の廊下を歩けば、
出会う貴族たちが
一瞬だけ姿勢を正します。
(……あら)
(敬意?
警戒?)
(どちらでも結構ですわ)
ですが、
決定的に変わったのは――
“距離感”。
誰も近づかない。
誰も話しかけない。
だが、
視線だけは外さない。
(……包囲、ですわね)
(見事ですわ)
学園では、
悪役令嬢は孤立します。
ですが王都では、
孤立させないことで隔離する。
(……高度ですわね)
⸻
昼過ぎ。
わたくしは、
予定表を見て首を傾げました。
(……妙ですわね)
社交会。
面談。
顔合わせ。
――すべて、
“延期”。
(……あら)
(これは)
(“自由に動かせない”
という意味ですわね)
代わりに入っているのは――
庭園散策。
読書時間。
休養。
(……ええ)
(完全に、
“大人しくしていなさい”枠です)
(王都、
本気ですわね)
⸻
その頃。
別室では、
王家と貴族院による
非公開協議が行われていました。
「……結論としては、
刺激しない」
「接触は制限」
「護衛を厚く」
「自由行動は――
事前共有」
(……事前共有?)
(それ、
自由ではありませんわね)
誰かが、
疲れ切った声で言いました。
「彼女は、
問題を起こしていない」
「だが、
“何も起こさない”ことで
問題になっている」
沈黙。
これ以上、
分かりやすい説明はありません。
「……殿下は?」
一斉に視線が集まります。
アレクシスは、
ゆっくりと答えました。
「……彼女を、
囲い込んではいけない」
(……遅いですわね)
「だが、
放置もできない」
(……それを、
最初に言ってくださいませ)
⸻
夕方。
わたくしは、
庭園のベンチで
紅茶を飲んでいました。
(……静かですわね)
(でも)
(これは、
“平和”ではありません)
(完全に、
監視下の静けさです)
ふと、
風に乗って
小さな声が聞こえました。
「……ローゼンクロイツ嬢」
(……あら?)
声の主は、
若い貴族令嬢。
ですが、
距離は三歩以上。
(……徹底していますわね)
「お話を……
しても、よろしいでしょうか……?」
(……ええ?)
(近づかないまま、
許可を取りますの?)
「構いませんわ」
(どうぞ)
令嬢は、
ほっとしたように息を吐き、
それでも距離を詰めません。
「……噂が」
「ええ」
(噂は、
いつでもありますわ)
「……その」
一瞬、
言葉を詰まらせてから、
彼女は続けました。
「……怖い方だと」
(……あら)
(やっと来ましたわね)
わたくしは、
にっこりと微笑みました。
「それは、
正しい評価ですわ」
令嬢は、
目を見開き――
そして、
深く頭を下げました。
「……失礼しました!」
(……あら?)
(今のは)
(“理解した”側の反応ですわね?)
令嬢は、
そのまま下がっていきました。
残されたわたくしは、
紅茶を一口。
(……ええ)
(包囲されています)
(警戒されています)
(怖がられています)
(……悪役令嬢として)
(これ以上ないほど、
順調ですわね)
その評価が、
“管理対象”という
最悪の方向に進んでいることに――
この時のわたくしは、
まだ完全には気づいていませんでした。
(次は……)
(この包囲を、
どう崩すかですわね)
――続きますわ。
⸻




