王都編・第10話 自由に動いた結果がこちらですわ
王都編・第10話 自由に動いた結果がこちらですわ
結論から申し上げますと――
王都は、耐えられませんでした。
(ええ)
(わたくしの自由行動に)
(まったく)
殿下との面談を終えた翌朝、
わたくしは晴れやかな気分で目を覚ましました。
(……ええ)
(今日は、
誰の許可も取りませんわ)
(誰の期待にも、
応えません)
(ただ――
悪役令嬢として、
自由に振る舞うだけですわ)
完璧です。
⸻
まず向かったのは、
王都中央の商業区。
人が集まり、
噂が生まれ、
余計な憶測が増殖する場所。
(悪役令嬢向きですわね)
護衛は最低限。
随行員も最小。
(“守られていない”感を
演出しますの)
通りを歩けば、
視線が集まります。
(ええ、
見られていますわね)
(遠巻きに)
(ものすごく)
誰も声をかけてきません。
誰も近づきません。
(……あら?)
(これはこれで、
つまらないですわね)
ですから、
次の一手。
わたくしは、
とある店の前で立ち止まりました。
――高級仕立て屋。
(ええ、
“噂が増える場所”ですわ)
店主が、
青ざめた顔で出迎えます。
「ろ、ローゼンクロイツ様……
本日はどのような――」
「特に用はありませんわ」
(即答)
「ただ、
見ているだけですの」
(……ええ)
(これ、
地味に効きます)
店内の空気が、
一瞬で凍りました。
(……はい)
(この反応、
好きですわ)
⸻
続いて、
貴族街の庭園。
本来なら、
“顔合わせ”や
“交流”が行われる場所。
(今日は、
一人で歩きますの)
ベンチに座り、
紅茶を飲み、
ただ景色を眺める。
(何もしていませんわ)
(本当に)
ですが――
それが、
一番まずかったのです。
(……あら?)
周囲の令嬢たちが、
ざわついています。
小声。
視線。
距離の取り直し。
(……なぜ?)
(わたくし、
何もしていませんわよ?)
――ですが、
王都では。
「何もしない」
=「何かを考えている」
この図式が、
完全に成立していました。
(……面倒ですわね)
⸻
夕方。
王城から、
“至急”の使者が来ました。
(……早いですわね)
応接間に通されると、
そこには――
疲れ切った顔のアレクシス殿下。
(……あら)
(昨日より、
老けました?)
「ローゼンクロイツ嬢……」
(声が、
掠れていますわね)
「今日、
どこへ行った?」
「ええと……」
(正直に答えましょう)
「商業区と、
庭園ですわ」
「それだけか?」
「ええ」
(それだけですわ)
沈黙。
殿下は、
両手で顔を覆いました。
(……あらあら)
「君は……
自覚がないのか?」
「何の、でしょう?」
(本当に分かりませんわ)
「君が動くと、
王都全体が
“意味を探し始める”」
(……なるほど)
「意味を?」
「陰謀か」
「圧力か」
「牽制か」
(……大げさですわね)
「わたくしは、
ただ歩いていただけですわ」
殿下は、
ゆっくりと顔を上げました。
「それが、
一番困る」
(……あら)
⸻
その瞬間、
わたくしは理解しました。
(……王都)
(悪役令嬢の自由行動、
耐性ゼロですわ)
学園なら、
笑われるか、
絡まれるか、
噂で終わります。
ですが王都は――
勝手に深読みする。
(……高度すぎますわね)
「殿下」
わたくしは、
少しだけ真剣に言いました。
「これ以上、
放っておくか」
「完全に止めるか」
「どちらかにしてくださいませ」
(中途半端は、
一番いけません)
殿下は、
しばらく黙り込み――
そして、
小さく頷きました。
「……分かった」
(……またですわね)
(“分かった”と言う時ほど、
分かっていません)
ですが、
一つだけ確信があります。
(王都は、
もう後戻りできませんわ)
(わたくしが、
自由に動いた以上)
これが、
王都編の転換点になることを――
この時の殿下は、
まだ知りませんでした。
わたくし?
(……ええ)
(次は、
もっと自由に行きますわ)
――続きますわ。
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