王都編・第8話 殿下が余計なことをなさいました
王都編・第8話 殿下が余計なことをなさいました
結論から申し上げますと――
王都は、余計なことをしましたわ。
(ええ)
(主語は“殿下”ですけれど)
その日、わたくしは特に何もしていませんでした。
強めの悪役ムーブも控えめ。
皮肉も抑えめ。
紅茶は通常糖度。
(……完璧な平常運転ですわ)
にもかかわらず。
なぜか、
王都の空気が――
ざわついていました。
(……あら?)
(これは)
(“わたくし由来ではないざわつき”ですわね)
⸻
原因は、
すぐに判明しました。
――王太子アレクシスが、
動いたのです。
(……あら)
(嫌な予感しかしませんわね)
内容はこうです。
・王都社交界に向けて
・「ローゼンクロイツ嬢は王家としても重要な存在」
・「不用意な距離取りは控えるように」
……。
(……殿下)
(それ、
一番やってはいけないやつですわ)
王都の令嬢たちは、
その“お触れ”をどう受け取ったか。
――即座に、
完全防御態勢に入りました。
(……あらあら)
⸻
午後のサロン。
わたくしが入室した瞬間、
空気が一段、静まりました。
(……静かですわね)
(でもこれは)
(“避けている”静かさではありません)
(……“警戒”ですわ)
令嬢たちは、
にこやかです。
丁寧です。
距離は――さらに遠い。
(……殿下)
(何をしてくださったのですの)
一人の令嬢が、
恐る恐る話しかけてきました。
「ローゼンクロイツ様……
本日は、ご機嫌いかがでしょうか……?」
(……ええ?)
(今までにない慎重さですわね)
「ええ。
特に問題はありませんわ」
(本当ですわよ)
その瞬間。
令嬢は、
ほっと安心した顔をしました。
(……今、
安堵しましたわね?)
(……これは……)
(“怒らせなかった”判定ですわ)
――完全に、
扱いが変わっています。
⸻
噂も、変質していました。
・「ローゼンクロイツ嬢は、王家直轄」
・「触ると面倒」
・「殿下が気にしている」
(……全部違いますわ)
(しかも、
一番困る方向に違います)
王太子アレクシスは、
“孤立を防ぐ”つもりだったのでしょう。
ですが結果は――
完全隔離。
(殿下は、
どうして一拍遅れた判断を
さらに遅らせるのですの……)
⸻
夕方。
わたくしは、
少しだけ真面目に考えました。
(……これは)
(王都での悪役令嬢活動、
難易度が高すぎますわね)
嫌われない。
近づかれない。
保護される。
(悪役令嬢、
どこにも居場所がありませんわ)
そのとき、
ふと気づきました。
(……あら)
(これ)
(殿下が動くたびに、
わたくしの立場が
悪化していますわね?)
――悪化、ですわよ?
※悪役令嬢基準です。
(これは、
止めるべきですわ)
(ええ、
殿下の“善意”は
危険すぎます)
わたくしは、
にっこりと微笑みました。
(次は……)
(殿下に、
はっきり申し上げる必要がありますわね)
(“放っておいてくださいませ”と)
王都がその一言に
どれほど動揺するか――
そのときのわたくしは、
まだ知りませんでした。
――続きますわ。
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