王都編・第7話 ローゼンクロイツ嬢は、危険です
王都編・第7話 ローゼンクロイツ嬢は、危険です
王都の会議は、今日も静かに始まった。
――静か、というのは表現として正しい。
内容は、まったく静かではなかったが。
「では、
例の件について整理します」
書記が、淡々と告げる。
「ローゼンクロイツ嬢――
現在の分類についてです」
(……またこの話か)
何人かが、内心でそう思った。
だが同時に、誰も否定できない。
なぜなら――
分類できていないからだ。
「まず確認ですが、
彼女は王都で問題行動を起こしていますか?」
「……いいえ」
「反王家の発言は?」
「……確認されていません」
「他家との軋轢は?」
「……直接的な衝突はありません」
沈黙。
(……では、何が問題なのだ)
一人が、慎重に口を開く。
「……にもかかわらず、
社交界が彼女を“避けている”」
「ええ。
誰も敵対しない。
誰も近づかない」
「称賛はある。
だが、関与がない」
別の者が、額に手を当てた。
「……厄介だな」
「非常に」
誰かが、ぽつりと漏らす。
「……“危険”なのでは?」
即座に反論が飛ぶ。
「違う。
危険なら、
もっと分かりやすい」
「騒ぎを起こす」
「主張する」
「敵を作る」
「彼女は、
そのどれもしない」
(……それが問題なのだが)
別の者が、低く言った。
「彼女は――
期待を受け取らない」
空気が、わずかに張り詰めた。
「褒賞に反応しない」
「役割を拒否する」
「誘導できない」
「しかも、
拒否が丁寧で、
否定に見えない」
(……それが一番厄介だ)
王都は、
“拒否される”ことには慣れている。
だが――
“納得されない拒否”には、慣れていない。
「では、
どう分類する?」
沈黙。
誰も答えを出せない。
そのとき、
王太子アレクシスが口を開いた。
「……彼女は、
危険人物ではない」
全員の視線が集まる。
「だが、
安全でもない」
(……殿下?)
「彼女は、
王都のルールを
理解していないのではない」
「理解した上で、
選ばない」
その一言で、
空気が変わった。
「……つまり?」
アレクシスは、静かに続けた。
「自分の基準でしか動かない」
「称賛されても、
それを目的にしない」
「評価されても、
役割にしない」
「だから、
誰も彼女を掴めない」
沈黙。
それは、
王都にとって最悪の評価だった。
「……では、
結論は?」
書記が、恐る恐る尋ねる。
誰かが、疲れたように言った。
「……“危険枠”だな」
「だが、
排除対象ではない」
「刺激厳禁」
「接触は慎重に」
「囲い込み禁止」
(……なんだ、それは)
(扱えない、
という意味ではないか)
アレクシスは、内心でため息をついた。
(……彼女は)
(本当に、
悪役令嬢になりたいだけなのに)
(どうして、
ここまで話をややこしくするのだ)
会議は、
結論を出さないまま終わった。
いや――
出せなかった。
⸻
同じ頃。
エリザベート・フォン・ローゼンクロイツは、
自室で紅茶を飲みながら、
機嫌よく考えていた。
(……今日は、
妙に静かでしたわね)
(これはこれで、
成功ですわ)
(きっと、
わたくしの“強め悪役ムーブ”が
効いていますの)
――その評価が、
「危険枠」に入った結果だとは、
露ほども知らずに。
(次は、
もう少し踏み込みましょうかしら)
王都と、
エリザベートの認識は、
今日も見事にすれ違っていた。
――続きますわ。
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