王都編・第6話 悪役らしく振る舞いましたのに、なぜですの?
王都編・第6話 悪役らしく振る舞いましたのに、なぜですの?
結論から申し上げますと――
この日は、完璧でしたわ。
(ええ)
(自分で言うのもなんですけれど)
(完璧でした)
王都に来てからというもの、
令嬢たちは距離を取り、
噂だけが走り、
正面衝突が一切ありません。
(おかしいですわね)
(悪役令嬢というものは)
(もっとこう……ぶつかられる存在では?)
嫌われる。
睨まれる。
陰口を叩かれる。
――それが基本ですわ。
なのに王都では、
誰も来ない。
誰も噛みつかない。
誰も火花を散らさない。
(これは由々しき事態ですわ)
ですから本日は、
あえて いきました。
ええ、
強めに。
悪役令嬢としての判断ですわ。
間違っていません。
⸻
昼下がりのサロン。
人が集まり、
視線が交差し、
立場が絡み合う――
王都らしい場所です。
(ここなら)
(多少強く出ても)
(問題ありませんわね)
わたくしは、
会話の輪に入るや否や、
あえて足を止めました。
――一拍。
(はい)
(ここで空気を止めます)
「……ずいぶんと、
お話が盛り上がっているようですわね」
(止めましたわ)
……止めた、はずでした。
ところが。
誰も反論しません。
誰も睨みません。
誰も言い返しません。
代わりに――
一歩、下がりました。
(……え?)
(下がりました?)
(嫌われる前に、避けられました?)
(それ)
(悪役令嬢として)
(一番ダメなやつですわ!!)
⸻
気を取り直して、
追撃です。
「王都では、
こうしたお話がお好きなのですね」
(軽い皮肉)
(優雅な見下ろし)
(完璧なはずです)
学園なら、
ここで確実にざわめきます。
ですが――
王都は違いました。
令嬢たちは、
一瞬だけ視線を交わし、
何事もなかったように話題を変えたのです。
(……)
(無視?)
(いいえ、違いますわ)
(これは)
(“刺激しない”という選択ですわね)
その瞬間、
はっきり理解しました。
(なるほど)
(王都では)
(悪役令嬢=事故)
(関わらない)
(触らない)
(避ける)
……高度ですわね。
⸻
その後も、
わたくしは頑張りました。
含みのある言い回し。
余計な沈黙。
意味深な視線。
(……完璧ですわ)
(教科書に載せたいレベルです)
ですが王都の令嬢たちは、
徹底していました。
――争わない。
――噛みつかない。
――距離を取る。
(……)
(これは)
(嫌われていません)
(でも)
(好かれてもいません)
(ただ)
(避けられています)
(……一番、困る状態ですわ)
⸻
夜。
自室に戻り、
紅茶を飲みながら、
わたくしは今日を振り返りました。
(振る舞いは完璧)
(言動も完璧)
(悪役度、満点)
(問題は――)
(王都が、
それを“受け止めない”点ですわね)
学園では、
衝突=イベント。
王都では、
衝突=事故。
(文化の違いですわ)
(なんて面倒な文化ですの)
そのとき、
ふと気づきました。
(……あら)
(これ)
(もしかして、わたくし)
(もう“危険枠”に入っていますの?)
胸の奥が、
少しだけざわつきます。
(それなら)
(中途半端は一番よくありませんわ)
(次は――)
(もっと分かりやすく)
(もっと派手に)
(悪役をやります)
(王都が耐えられるかは)
(知りませんけれど)
わたくしは、
扇子を閉じ、
にっこりと笑いました。
(ええ)
(悪役令嬢として)
(次は本気ですわ)
――続きますわ。
⸻




