王都編・第5話 令嬢たちは、近づいてきませんのね
王都編・第5話 令嬢たちは、近づいてきませんのね
王都で数日過ごして、
わたくしは一つの事実に気づきました。
(……誰も、
正面から来ませんわね)
夜会では視線を浴びました。
噂も、確実に走っているはずです。
ですが――
近づいてくる令嬢が、いない。
(学園なら、
もう三人ほど絡まれている頃ですわ)
これは、
明らかに異常です。
その理由は、
すぐに分かりました。
⸻
午後のお茶会。
わたくしは、
とある貴婦人に招かれて参加していました。
(表向きは、
“顔合わせ”ですわね)
集まっているのは、
王都でもそれなりに名の知れた令嬢たち。
皆さま、
にこやかで、
丁寧で、
隙がありません。
(……ええ、
これは“戦場”ですわ)
お茶が注がれ、
無難な話題が一巡した頃。
一人の令嬢が、
ようやく切り出しました。
「ローゼンクロイツ様は、
学園で随分と自由に振る舞っていらしたとか」
(来ましたわね)
わたくしは、
扇子を軽く傾けました。
「ええ。
好きにしておりましたわ」
(悪役令嬢としては、
この返しで十分でしょう)
ですが、
空気は変わりません。
令嬢たちは、
一瞬だけ視線を交わし、
それ以上踏み込んできませんでした。
(……あら?)
別の令嬢が、
探るように続けます。
「王太子殿下とも、
もうお会いになったのですよね?」
(……本当に、
回りくどいですわね)
「ええ。
昼間に少し」
「その……
今後のご予定などは?」
(つまり、
“どこに属するのか”ですわね)
わたくしは、
少しだけ考えてから答えました。
「未定ですわ」
(悪役令嬢らしく、
余白を残しました)
ところが。
令嬢たちは、
ほっとしたように微笑んだのです。
(……?)
(今、
安心しましたわね?)
その瞬間、
はっきり理解しました。
(……なるほど)
(王都の令嬢たちは、
わたくしを“敵”としても
“味方”としても
扱っていませんわ)
彼女たちは、
わたくしをこう分類している。
(“触らなくていい人”)
⸻
お茶会が終わり、
馬車に戻る途中。
わたくしは、
一人で考え込みました。
(……これは、
悪役令嬢としては
少々問題ですわね)
敵対も、
対抗も、
嫉妬もない。
あるのは――
距離。
(王都は、
衝突を避ける文化ですのね)
学園では、
わたくしが何か言えば、
誰かが反応しました。
ですが王都では、
「反応しない」ことで、
場を保つ。
(……つまらないですわ)
(悪役令嬢は、
嫌われてこそですのに)
その夜。
自室で紅茶を飲みながら、
わたくしは小さく息を吐きました。
(王都では、
悪役令嬢の立ち回りも
高度ですわね)
(正面から行けば、
距離を取られる)
(踏み込めば、
無言で避けられる)
(……)
(これは……
“もう一段、
強めにいく必要がありますわね”)
わたくしは、
にっこりと笑いました。
(ええ。
次は、
もう少し分かりやすく
悪役らしく振る舞いましょう)
ですが――
王都がそれを
どう受け取るかは、
また別の話です。
――続きますわ。
⸻




