王都編・第4話 王都は、分類に失敗しました
王都編・第4話 王都は、分類に失敗しました
王都の会議というものは、
結論を出す場ではない。
――という事実を、
その場に集められた者たちは、全員よく理解していた。
円卓。
記録係。
発言順は厳密。
だが、議題だけはやけに曖昧。
「本日の件ですが……」
口火を切ったのは、貴族院の調整役だった。
「ローゼンクロイツ嬢の扱いについて、
王家として、
ある程度の方針を共有しておく必要があるかと」
沈黙。
“扱い”という単語が、
すでに不穏だ。
「彼女は、
婚約破棄後にも関わらず、
評価を落としていない」
「むしろ、
上がっている」
「王都社交界でも、
距離は取られているが、
軽視はされていない」
(……距離は取られている)
(そこが問題なのだ)
誰かが、低く呟いた。
「……囲えない」
その一言で、
空気がわずかに揺れた。
「称賛はある。
だが、依存がない」
「利用しようとすると、
線を引かれる」
「誘導できない」
「反発もしない」
(……つまり)
(扱えない)
別の貴族が、慎重に言葉を選ぶ。
「彼女は、
王都の“型”に入らない」
「政治的野心も、
権威欲も、
見えない」
「だが、
無害とも言い切れない」
誰かが言った。
「……危険人物では?」
即座に、否定が入る。
「違う。
危険なら、
もっと分かりやすい」
「彼女は、
こちらを攻撃しない」
「だが、
こちらの期待も受け取らない」
沈黙。
“危険”ではない。
だが、
“安全”でもない。
「分類不能、
ということか」
その言葉に、
全員が黙った。
王都は、
分類できない存在を最も嫌う。
敵なら敵。
味方なら味方。
利用対象なら利用対象。
だが――
ローゼンクロイツ嬢は、
そのどれでもない。
「……彼女は」
一人が、静かに言った。
「“役割を拒否する存在”だ」
それは、
王都にとって、
最も厄介な属性だった。
扉の近くで、
王太子アレクシスが口を開く。
「……彼女を、
刺激するな」
視線が集まる。
「殿下?」
「彼女は、
争う気がない」
「だが、
こちらの都合で動かそうとすれば――」
言葉を切る。
「確実に、
こちらが疲弊する」
誰も反論できなかった。
それは、
王太子としての命令ではない。
“実体験に基づく忠告”だったからだ。
「では、
どう扱う?」
沈黙。
誰も、答えを出せない。
結局、
会議はこう締めくくられた。
「当面は――
静観」
それは、
王都における最大級の敗北宣言だった。
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同じ頃。
エリザベート・フォン・ローゼンクロイツは、
王都の自室で紅茶を飲んでいた。
(……今日は、
妙に静かですわね)
(これはこれで、
嫌な予感がしますけれど)
何も知らないまま、
彼女は思う。
(王都は、
まだ本気ではありませんわね)
(――ええ、
そのうち動くでしょう)
(ですから、
それまでに)
(もう少し、
悪役らしく振る舞う準備をしておきますわ)
王都が出した結論と、
彼女の認識は、
微妙に噛み合っていなかった。
だがそれこそが――
この物語の、正しい進み方だった。
――続きますわ。
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