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『悪役令嬢になりたいのに、全部善行扱いされてしまうんですが!?』  作者: ゆう
王都編

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王都編・第3話 夜会ですって? ええ、悪役向きですわね

王都編・第3話 夜会ですって? ええ、悪役向きですわね


王都の夜会に招かれた時点で、

わたくしは覚悟を決めました。


(……来ましたわね。

 いよいよ“悪役令嬢の本番”ですわ)


昼間の会合は、正直まだ前哨戦です。

本番は夜。

音楽と宝石と、

笑顔に包まれた悪意が飛び交う場所。


(ええ、

 悪役令嬢にとっては

 最高の舞台ですわ)


案内された会場は、

豪華絢爛――ではありましたが、

わたくしの関心はそこではありませんでした。


(……視線が多いですわね)


ですが、数はどうでもよろしい。

問題は質です。


(これは……

 “探っている”

 “測っている”

 “様子を見ている”)


(王都の社交界、

 やはり回りくどいですわ)


誰も真正面から来ません。

代わりに、

遠回しな賛辞、

意味深な同情、

含みのある問いかけ。


「学園では、

 随分とご活躍だったとか」


(出ましたわね)


「殿下との一件も、

 さぞお辛かったでしょう?」


(……どの立場で仰っていますの)


わたくしは、にこやかに返します。


「ええ。

 大変“静か”な出来事でしたわ」


(静か=何も言っていない、の意味ですわよ)


相手は一瞬、言葉に詰まりました。


(はい、一点)


(“同情”という手札は、

 使えないと学びましたわね)



しばらくして、

とあるご夫人が近づいてきました。


(……あら)


(これは、

 “主導権を取る気”の方ですわね)


「ローゼンクロイツ嬢。

 王都では、

 あなたの立ち位置が話題ですの」


(立ち位置)


(便利な言葉ですわ)


「今後、

 どなたかのお側に立つご予定は?」


(……)


(悪役令嬢としては、

 ここで意味深に笑うべきところ)


わたくしは、

少しだけ考えてから答えました。


「“立つ”かどうかは、

 相手次第ですわ」


(立たせたいなら、

 それなりの覚悟をなさい、という意味ですわ)


ご夫人は、

一瞬だけ目を細めました。


(……あら)


(今、

 “面倒な子”に分類されましたわね)


――成功です。



音楽が変わり、

場の空気が緩み始めた頃。


わたくしは、

端のほうで紅茶を口にしました。


(……甘い)


(王都の紅茶は、

 少し甘すぎますわね)


そのとき、

背後から声がしました。


「……楽しんでいるか?」


(……)


(この声)


振り返るまでもありません。


「殿下。

 ご挨拶は、

 昼間で十分ではなくて?」


アレクシス王太子。


(……本当に、

 夜会まで来てしまいましたのね)


彼は、

少しだけ困った顔をしていました。


(……ええ、

 その表情)


(“話せば何とかなる”と

 まだ思っている顔ですわ)


「王都の空気は、

 学園とは違う」


「……忠告のつもりですかしら」


「いや」


一瞬、言葉に詰まる。


(……はい)


(ここで詰まるのが、

 殿下ですわ)


「……心配している」


(……)


(今さらですわ)


わたくしは、

扇子を閉じました。


「殿下」


声は低く、

丁寧に。


「心配というのは、

 “選ぶ権利”を与えた人間が

 口にする言葉ですわ」


彼は、何も言えなくなりました。


(……ええ)


(この沈黙)


(夜会には、

 よく似合いますわね)


「わたくしは、

 王都でも、

 学園でも、

 自分の立ち位置は自分で決めます」


「それが気に入らないのでしたら――」


にこやかに、

締めくくります。


「どうぞ、

 遠くから眺めていてくださいませ」


(悪役令嬢としては、

 満点ですわ)



その後、

誰も直接、

わたくしに踏み込んできませんでした。


視線は集まる。

噂は走る。


ですが、

“囲われる”ことはない。


(……ふふ)


(王都でも、

 ちゃんと距離は取らせましたわね)


夜会が終わり、

馬車に戻る頃。


わたくしは、

小さく満足しました。


(……悪役令嬢として、

 及第点ですわ)


(ただ……)


(なぜか、

 評価は下がっていない気がしますけれど)


それは、

次の問題ですわね。


――続きますわ。


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