第1章 第3話 ――私の高慢発言が“人生指南”になるなんて聞いてませんわ
第3話では、主人公の“高慢ムーブ”が
まさかの 「人生指南」 と誤解される回でした!
悪役令嬢の上から目線=“誇りを持てという激励”
という完全なる誤訳をされ、
令嬢ファンクラブが急増する始末。
勘違いと好感度の暴走が、着々と物語を加速させています。
第1章 第3話 ――私の高慢発言が“人生指南”になるなんて聞いてませんわ
いじめ事件(※誤解)の翌日。
学園では朝から妙に視線を感じていた。
(……あの噂、まだ続いてますわね)
周囲の令嬢達が、廊下を通るたびにそわそわして距離を空ける。
ざわ……ざわ……そしてヒソヒソ声。
「エリザベート様よ……」
「昨日も誰かを救ったらしいわ」
「やっぱり気高さが違う……!」
(違うのよ。本当に違うのよ……!)
面倒なことになった、と思いながらも、
今日こそ悪役ムーブを成功させたい私は
学園中庭に向かった。
そこでは数名の令嬢達が集まっていて、
どうやら社交界マナーの話題で揉めているようだった。
「パーティーで失礼があったらどうしよう……」
「挨拶の順番ってやっぱり難しいわよね……」
「私なんてとてもじゃないけど、堂々となんて振る舞えない……」
弱腰で自信のない声が飛び交う。
(……来たわね)
私は胸を張り、ドレスの裾を翻して令嬢達の前に立った。
気品ある歩調。優雅な笑み。完璧な“高慢令嬢ムーブ”。
(ここで悪役ぽく一言言っておけば、
私の“嫌われポイント”も上がるはず……!)
私は彼女達を見下ろしながら、
悪役令嬢特有の上から目線で言い放った。
「自信がない?
――なら、誇り高く立てばよろしいでしょう?
わたくしはローゼンクロイツ家の名を背負っておりますのよ。
胸を張りなさいな」
完璧。
SNSで見た悪役令嬢の名台詞をそのまま再現した。
(これで私の悪役ポイントは――)
「……っ、か、かっこいい……!」
令嬢達の顔がみるみる赤くなった。
「エリザベート様……なんて凛として……!」
「誇りを持つことの大切さ……分かりましたわっ」
「私、今日から胸を張って生きます!」
(いや違う! 違うのよーーー!!)
私は悪役らしく“マウントを取りたかった”だけなのに、
なぜか令嬢達には
“エリザベート様、人生の指南をしてくださった”
と解釈されてしまった。
さらに――
「エリザベート様!」
「今日からわたくし、崇拝させていただきます!」
「どうかお傍に置いて……!」
令嬢達がわらわらと集まり、
気付けば私は中庭の中心で囲まれていた。
(囲まれてる!? 私、囲まれて好かれてる!?)
そこへ、横から落ち着いた声が聞こえた。
「相変わらずだな、エリザベート」
銀髪の王太子アレクシスが歩み寄ってきた。
(やばい、よりによって殿下……! 高慢ムーブ見られてる!?)
「さすがだ。
君の“信念ある言葉”は、多くの者に影響を与える」
「……はい?」
アレクシスは微笑む。
「胸を張れ、と言える者は少ない。
君の気高さは、学園の模範になるだろう」
(だから違うのよ~~~!!)
周りの令嬢達は一斉に感嘆の声を上げた。
「殿下のお墨付き……!」
「エリザベート様、やはり王妃の器……!」
「気高さ、上品さ、強さ……全部揃ってる……!」
(悪役令嬢の“嫌味発言”が……なんで“人生訓”になってるの!?)
私は内心で頭を抱えつつ、
優雅な微笑みだけは崩さずにその場をやりすごした。
その日の午後――
学園内にはまた新たな噂が広まっていた。
「エリザベート様の気高さ講義が中庭で開催された」
(講義!? 私、講義なんてしてませんわよ!?)
こうして私は、またも“悪役令嬢ムーブ”に失敗し、
学園内の崇拝者を増やすという
望んでいない成果を手にしてしまったのだった……。
ご読了ありがとうございます!
今回も
“悪役ぶろうとする → 大人気になる”
という、主人公から見れば地獄のような展開でした。
次回はさらに事件が起きます。
次話 第4話:王太子に冷たくする → 惚れられる
エリザベートの地獄はまだまだ続きます……。




