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『悪役令嬢になりたいのに、全部善行扱いされてしまうんですが!?』  作者: ゆう
王都編

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王都編・第2話 殿下は、すでに負けていました

王都編・第2話 殿下は、すでに負けていました


アレクシス・ヴァルディス王太子は、

面談が終わっても席を立てずにいた。


円卓の向こうは、もう空だ。

文官も、調整役も、

「後ほど改めて」と言い残し、静かに退出した。


残されたのは、

沈黙と――自分だけ。


(……何を、期待していた)


自嘲が、遅れて胸に落ちてくる。


彼女が入室した瞬間から、

勝負はついていた。


いや、

勝負になっていなかった。


机の上に積まれた書類には、

一つの名前が何度も繰り返されている。


エリザベート・フォン・ローゼンクロイツ。


評価。

影響力。

学園での立ち位置。

婚約破棄後の世論。


どれも、整いすぎていた。


(……だから、だ)


彼女は、

この部屋の目的を

一言も説明される前に理解していた。


「使う気満々の配置ですわね」


――そう口にしたわけではない。

だが、

彼女の態度がすべてを語っていた。


(……俺は)


(また、

 遅れた)


学園では、

彼女が“そういう存在”になってから気づいた。


王都では――

彼女が“扱えない存在”だと、

指摘されてから理解した。


「無視できない存在だ」


自分の言葉を思い出す。


(……なんて、

 無責任な言い方だ)


(選ばない。

 責任を取らない。

 だが関わろうとする)


それを、

彼女は一瞬で切り捨てた。


「今さら“期待”を向けられても、

 困りますわ」


あの声音。


怒りも、悲しみもない。

ただ、

線を引く声。


(……当然だ)


(俺は、

 彼女に何も選ばせなかった)


選ばず、

流し、

先延ばしにした結果が、これだ。


文官の言葉が、

遅れて蘇る。


「……ローゼンクロイツ嬢は、

 少々“扱いづらい”かと」


(違う)


(扱いづらいのではない)


(最初から、

 扱われる気がないのだ)


称賛にも、

評価にも、

地位にも――

彼女は、一切興味を示さない。


欲しがらない。


だから、

誰も彼女を縛れない。


(……彼女は)


(王都向きではない)


だが同時に、

王都にとって最も厄介な存在でもある。


欲しがらない者は、

交渉できない。


扉の外から、

控えめな声がした。


「殿下。

 貴族院より、

 ローゼンクロイツ嬢の件で

 正式な照会が――」


アレクシスは、

ゆっくりと目を閉じた。


(……始まったな)


王都は、

彼女を評価し、

分類し、

役割を与えようとする。


だが――

彼女は、

そのどれにも当てはまらない。


(……俺は)


(彼女を、

 元婚約者として失ったのではない)


(“選ばない存在”として、

 完全に置いて行かれたのだ)


アレクシスは、静かに告げた。


「……彼女を、

 軽く扱うな」


側近が、息を呑む。


「殿下……?」


「王都が思っているほど、

 彼女は“便利”ではない」


それは、

王太子としての判断であり、

同時に――

一人の男としての、遅すぎる敗北宣言だった。


そして王都は、

まだ気づいていない。


“悪役令嬢になりたかった少女”が、

最も王都を困らせる存在だということに。


――続きます。


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