王都編・第1話 悪役令嬢、王都に召喚されましたわ
王都編・第1話 悪役令嬢、王都に召喚されましたわ
正直に申し上げますと――
王都に呼び出された時点で、嫌な予感しかしませんでしたわ。
学園からの招待状ならともかく、
王都からの“丁寧すぎる手紙”ほど信用ならないものはありません。
「近日中に一度、お話を」
……話、ですって?
(話というのは、本来、
逃げ道が二つ以上ある状態で成立するものですわ)
にもかかわらず、日時指定。
場所指定。
服装は自由と書いてあるのに、
行かない選択肢は書いていない。
(はい、罠確定ですわね)
通されたのは、王城ではありませんでした。
ですが、王家の管理下にある応接館。
(“正式だけど非公式”……
ええ、王都が一番得意な形式ですわ)
扉を開けた瞬間、
わたくしは理解しました。
(……あら。
これは“使う気満々”の配置ですわね)
円卓。
距離感は近すぎず遠すぎず。
逃げ道のない位置に、わたくしの席。
そして――
向かいに座っていた人物を見て、心の中で一言。
(……殿下。
その顔、今さらですわ)
王太子アルフォンス。
学園で見たときより、ずっと“王太子”の顔をしていらっしゃる。
感情を削って、
立場だけを残した――
いかにも「学習しました」と言わんばかりの表情。
(遅いですわよ)
文官の一人が、咳払いをして口を開きました。
「ローゼンクロイツ嬢。
本日は、お時間をいただきありがとうございます」
(ええ、ええ。
時間を奪われている側ですけれど)
「単刀直入に申し上げます。
現在、あなたの評価は――」
(出ましたわね)
(王都名物、“評価の話から入るやつ”)
「王都でも、非常に高く――」
(だから下げたいと、
何度申し上げればよろしいのかしら)
わたくしは、にこやかに口を開きました。
「失礼ですが、その評価は
“誰にとって都合の良い評価”ですの?」
空気が、ぴしりと固まりました。
(……あら。
質問一つで止まるということは、
深く考えていませんでしたわね)
文官が言葉を探している間、
わたくしは続けます。
「学園での出来事も、
婚約破棄も、
すべて“結果論”ですわ」
「わたくしは一度も、
王都の期待に応えようとした覚えはありませんの」
(むしろ、逆ですわ)
王太子が、低い声で口を挟みました。
「……それでも、
君の存在は無視できない」
(“無視できない”)
(便利な言葉ですわね。
責任は負わず、
期待だけ押し付けられる)
わたくしは、扇子を閉じました。
「殿下」
初めて、王太子のほうを見ます。
「今さら“期待”を向けられても、
困りますわ」
その目が、わずかに揺れました。
(……はい、
その反応。
学園で見たかったですわね)
「わたくしは、
王都の象徴にも、
模範にも、
便利な札にもなるつもりはありません」
文官たちが、明らかに焦り始めました。
(……あらあら)
(“扱いやすい令嬢”として
呼んだつもりが、
違いましたわね)
「それでも関わらせたいと仰るなら」
わたくしは、静かに告げました。
「そのときは――
わたくしのやり方で関わります」
(つまり、
思い通りには動きません、という意味ですわ)
沈黙。
王都は、即答を嫌います。
ですが、即答しないということは――
“警戒対象”になったということ。
(……悪役令嬢としては、
上出来ですわね)
面談は、結論を出さないまま終わりました。
ええ、ええ。
それでよろしいのです。
馬車に戻りながら、
わたくしは小さく息を吐きました。
(……学園では“事件体質”、
王都では“扱いづらい存在”)
(やっと、
悪役令嬢らしくなってきましたわ)
(さて――
次は、どなたが誤解してくださるのかしら)
――続きますわ。
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