新章・第4話 評価を下げる計画、開始しますわ
新章・第4話 評価を下げる計画、開始しますわ
エリザベート・フォン・ローゼンクロイツは、
自室の机に向かい、真剣な顔で紙に向き合っていた。
紙の上には、大きく書かれた一文。
《評価を下げるための具体策》
(……本気ですわ)
これ以上、
称賛され、期待され、象徴扱いされ続ければ、
本当に“悪役令嬢”への道が閉ざされてしまう。
(ここで流れを変えなければ……!)
コンコン、と控えめなノック。
扉が開き、
黒薔薇会の面々が静かに集まってきた。
マルグリットが、いつものように少し緊張した声で言う。
「エ、エリザベート様……
その……お呼びでしょうか……?」
「ええ。
今日は皆さまに、
大事な作戦会議がございますの」
フローラが目を輝かせる。
「さ、作戦ですかぁ……?」
クレアは短く言った。
「嫌な予感しかしない」
リリアは拳を握る。
「悪役修行ですね!!
燃えてきました!!」
セシリアは腕を組んで、半眼。
「……止めた方がいいと思うけど?」
セラフィーナは壁にもたれ、腕を組んだまま。
「で。
今度は何を“やらかす”つもりだ?」
エリザベートは、紙を掲げた。
「わたくし、
意図的に評価を下げますわ」
一瞬、沈黙。
「……え?」
「……評価を……下げる……?」
マルグリットが小さく繰り返す。
「はい。
今のままでは、
悪役令嬢として完全に失格ですの」
(皆さま、
なぜそんな顔をなさるの……?)
エリザベートは続ける。
「ですから、
“感じの悪い令嬢”として振る舞い、
社交的評価を落としますわ」
リリアが目を輝かせた。
「なるほど!!
ヒーローが闇落ちするやつですね!!」
「違いますわ!!
ヒーローではありません!!」
クレアは冷静に聞く。
「具体策は?」
エリザベートは、紙を見せた。
「第一案。
無愛想に対応する」
セシリアが即答する。
「無理ね」
「第二案。
誘いを全部断る」
「すでに“自立した女性”扱いされてるわ」
「第三案。
高慢な態度を取る」
セラフィーナが鼻で笑った。
「それ、今まで全部
“気高い”で処理されてきたやつだろ」
(……なぜ、
誰も希望を与えてくださらないのですか……)
マルグリットが、おずおずと手を挙げた。
「あ、あの……
でしたら……
“失礼なこと”を言えば……?」
エリザベートは、はっとする。
「……それですわ!!」
全員の視線が集まる。
「誰かを、不快にさせる発言……
それなら、確実に評価が下がりますわ……!」
セシリアが低く呟いた。
「……火を見るより明らかに失敗する流れね」
⸻
その日の放課後。
エリザベートは、
学園の中庭にいた。
標的は――
貴族令嬢たちの談笑グループ。
(……今度こそ……)
深呼吸。
(悪役令嬢らしく……
冷たく、上から目線で……)
一歩、踏み出す。
「……随分と、
楽しそうですわね」
声は低く、
表情は抑えめ。
(……よし)
令嬢の一人が振り向き、
目を輝かせた。
「エリザベート様!!」
(だめですわ!!
反応が良すぎますわ!!)
エリザベートは、意を決した。
「……正直、
その話題、
あまり品があるとは思えませんわ」
(言いましたわ……!!)
一瞬、
空気が止まる。
(……よし……
これで……)
しかし。
「……まあ……!」
「ご指摘……ありがとうございます……!」
「私たち、少し浮かれていましたわ……!」
(なぜ反省会になりますの!?)
背後で、
新聞部が走り書きをしている。
「見ました!?
ローゼンクロイツ様、
学園の風紀を正す一言!!」
(やめてくださいませ!!)
⸻
次の作戦。
エリザベートは、
わざと誘いを断り続けた。
「本日は、
ご一緒できませんわ」
「申し訳ありませんが、
遠慮いたします」
「今は、
一人でいたい気分ですの」
結果。
「自分の時間を大切になさっている……」
「無理に合わせない強さ……」
「流されない生き方……」
(評価が……
減りませんわ……)
⸻
最後の切り札。
(……あとは、
殿下ですわ)
王太子アレクシスが、
廊下の向こうから歩いてくる。
(ここで……
決定的に失礼な態度を……)
すれ違いざま、
エリザベートは立ち止まり、
あえて視線を合わせない。
「……殿下」
「……エリザベート」
彼女は、
冷たく言い放った。
「これ以上、
わたくしに関わらないでくださいませ」
(……完璧ですわ)
(さすがにこれは……
評価が……)
アレクシスは、
一瞬、傷ついたような顔をしたが――
すぐに、真剣な表情になった。
「……分かった。
君の意志を尊重する」
周囲がざわめく。
「はっきり言える関係……」
「未練を断ち切る強さ……」
「お互いを思いやっている……」
(思いやってなどいませんわ!!)
⸻
夜。
エリザベートは、
黒薔薇会に囲まれていた。
「……結論ですわ」
全員が息を呑む。
「評価を下げる作戦――
全滅です」
マルグリットは涙目。
「す、すみません……
わたし……
役に立てなくて……」
「いいえ。
皆さまのせいではありませんわ」
フローラが小声で言う。
「エリザベート様が……
もう……
そういう存在なんだと思いますぅ……」
クレアは短く言った。
「評価、固定化」
セラフィーナが肩をすくめる。
「……詰んでるな」
セシリアは、
紅茶を一口飲んで、静かに言った。
「覚悟なさい。
あなたはもう――
“下がらない存在”よ」
エリザベートは、
机に突っ伏した。
「……悪役令嬢への道が……
遠ざかっていますわ……」
しかし。
その目は、
まだ諦めていなかった。
(……ならば……
次は……
もっと過激な方法を……)
新章は、
さらに危険な方向へと進み始めていた。
――続く。




