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『悪役令嬢になりたいのに、全部善行扱いされてしまうんですが!?』  作者: ゆう
新章 『婚約破棄したはずなのに、なぜか評価が更新され続けますわ』

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28/71

エリザベート・フォン・ローゼンクロイツは、婚約を破棄

エリザベート・フォン・ローゼンクロイツは、婚約を破棄する


その日、王宮の小広間は、異様な静けさに包まれていた。


壁に掛けられた紋章旗も、磨き上げられた床も、

まるでこの場に集う人々の緊張を吸い取っているかのように沈黙している。


エリザベート・フォン・ローゼンクロイツは、

背筋をまっすぐに伸ばし、中央に立っていた。


扇子は閉じ、

視線は逸らさず、

声が震えないよう、胸の奥で深く息を整える。


(……ついに、この時が来ましたわ)


向かいに立つのは、王太子アレクシス。

そしてその周囲を固めるのは、王族、重臣、貴族たち。


本来ならば――

ここは「断罪」の場になるはずだった。


婚約者に冷淡で、高慢で、

ヒロイン(になるはずだった少女)を苛め、

社交界を混乱させた悪役令嬢が、

王太子から婚約破棄を言い渡される。


それが、

エリザベートが憧れ、目指し、

何度も脳内でシミュレーションしてきた

“理想の悪役令嬢ルート”。


しかし。


(……何度仕掛けても、殿下は破棄してくださらなかった)


冷たくしても、

突き放しても、

嫌味を言っても、

悪役ムーブを完璧に決めても。


返ってくるのは、

「気高い」

「芯が強い」

「王妃の器だ」

という、意味不明な評価ばかり。


だから――


(ならば、わたくしがやるしかありませんわね)


エリザベートは、一歩前に出た。


その靴音が、広間に小さく響く。


「陛下。王太子殿下。

 本日はお時間を頂戴し、ありがとうございます」


その声は、澄んでいた。


重臣の一人が目を細める。


「ローゼンクロイツ嬢……

 改まって、どうされましたかな」


エリザベートは一礼し、

ゆっくりと顔を上げる。


「本日は――

 わたくしから、婚約の破棄を申し出るために参りました」


一瞬、

時間が止まった。


「……は?」


誰かの間抜けな声が、静寂を破った。


王太子アレクシスが、目を見開く。


「エ、エリザベート……?

 い、今……何と……?」


エリザベートは、逃げない。


視線を逸らさず、

はっきりと告げる。


「わたくし、エリザベート・フォン・ローゼンクロイツは、

 王太子殿下との婚約を――

 ここに、正式に破棄いたします」


(言えましたわ……!)


胸の奥が、少しだけ軽くなる。


これで――

これでようやく、悪役令嬢としての第一歩を――


「なぜだ!?」

アレクシスが、思わず声を荒げた。


「なぜ、君が……!

 私に不満があるなら、話し合えば――」


「不満、ではございません」


エリザベートは、静かに首を振る。


「これは、わたくし自身の問題ですわ」


「……どういう意味だ?」


王太子だけでなく、

周囲の貴族たちも息を呑んでいる。


エリザベートは、言葉を選んだ。


(……悪役令嬢としては、

 ここで高慢に、冷酷に言い放つべきですけれど……)


けれど、

なぜか声は、自然と落ち着いていた。


「殿下。

 わたくしは――

 王妃という立場に、相応しい人間ではありません」


その瞬間、

場がざわついた。


「謙遜だろう……?」

「彼女ほどの令嬢が……?」

「いや、ローゼンクロイツ家の誇りだぞ……?」


(……あれ?)


エリザベートは内心で首を傾げる。


「わたくしは、自分の意志で生きたいのです」


言葉が、

思った以上に真っ直ぐに出ていく。


「誰かの期待や、役割のためではなく。

 自分がどう在りたいかを、自分で決めたい」


アレクシスは、唇を噛みしめた。


「それが……

 私の隣では、できないと?」


エリザベートは、少しだけ目を伏せ――

そして、微笑んだ。


「殿下の隣では、

 わたくしは“理想の王妃”になってしまいますわ」


その言葉は、

剣のように鋭く、

同時に、どこまでも誠実だった。


「それは、

 わたくしが望む生き方ではございません」


沈黙。


そして――


王が、ゆっくりと立ち上がった。


「……エリザベート・フォン・ローゼンクロイツ」


「はい、陛下」


「その覚悟、

 立派である」


(……え?)


「自らの人生を選ぶ勇気。

 それは、誰にでもできることではない」


重臣たちが、次々と頷き始める。


「むしろ……

 王太子の婚約者という重圧を思えば……」

「この決断は……

 称賛されるべきでは……?」


(……称賛?)


エリザベートの脳内で、

警鐘が鳴り響く。


(待ってくださいませ!?

 これは断罪イベントでは!?

 拍手喝采の流れではありませんわよね!?)


アレクシスは、愕然とした表情で立ち尽くしていた。


「……私が、足りなかったのか……?」


「殿下が悪いわけではありませんわ」


エリザベートは即答する。


(違いますわ!

 殿下が悪いことにしていただかないと困りますの!)


だが、その一言が――

決定打だった。


「なんと……」

「最後まで殿下を気遣うとは……」

「なんという気高さ……」

「これぞ真の貴族令嬢……」


(ちがいますわーーーーー!!)


王が、厳かに告げる。


「婚約破棄を、認めよう。

 そして――

 エリザベート・フォン・ローゼンクロイツ。

 そなたの未来に、祝福を」


広間に、拍手が響いた。


控えめで、

しかし確かな、

敬意に満ちた拍手。


エリザベートは、

その音の中で、呆然と立ち尽くす。


(……断罪は?

 追放は?

 悪役令嬢ルートは……?)


アレクシスは、深く頭を下げた。


「……君の選択を、尊重する。

 だが……

 それでも私は、君を――」


「殿下」


エリザベートは、きっぱりと遮った。


「これ以上は、

 互いのためになりませんわ」


その姿は、

あまりにも堂々としていた。


あまりにも、美しく。


この日――

エリザベート・フォン・ローゼンクロイツは、


・婚約を破棄し

・断罪されず

・追放もされず

・むしろ評価を爆上げし


「自立した高潔な令嬢」という伝説を更新した。


そして本人だけが、

心の底から叫んでいた。


(どうしてですのーーーーーー!!!

 わたくしは悪役令嬢になりたかっただけですのにーーーー!!)


――こうして、

“悪役令嬢を目指した結果、誰よりも称えられる令嬢”の物語は、

さらに一段、ややこしい局面へと進むのであった。


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