第4章 第19話――罪を重ねようとすればするほど、善行として称えられましたわ!?
第19話は、
「悪行しようとするほど善行扱いになる」という
本作でもトップクラスの勘違い大爆発回 でした。
・嫌味 → 気遣い
・物を壊す → 危険を救った
・邪魔 → 参加歓迎
・殿下への冷たさ → 愛しい扱い
主人公の悪役ムーブがすべて“プラスに変換される呪い”が
完全に発動しています。
第4章 第19話――罪を重ねようとすればするほど、善行として称えられましたわ!?
断罪イベントを自分で告知したにもかかわらず、
殿下と学園全員に感動イベントへ変換されてしまった翌日。
(……もしかして私は、
“悪役になれない呪い”にでもかかっていますの……?)
私は鏡の前で愕然としていた。
(こんなに眉を釣り上げて、
こんなに冷たい目をして、
こんなに悪役令嬢らしい顔をしているのに……
なんで“清廉潔白の象徴”とか呼ばれているんですの!?)
もうこうなったら、手段はひとつ。
(自分で“悪行リスト”をこなすしかありませんわ!
今日という今日は、本気で罪を重ねてやりますの!!)
私はメイドに見られないよう、
ひっそりと“悪行計画ノート”を開いた。
ページには大きな文字でこう書いてある。
『嫌われるにはどうすればいい?』
(① 嫌味を言う
② わざと物を壊す
③ 誰かの邪魔をする
④ 殿下に冷たい態度
……どれでもいいですわね!)
私は拳を握りしめて家を飛び出した。
***
◆① 嫌味を言ってみた結果
学園に着くと、
最初にミリアを見つけた。
(まずはこれですわ。
ミリアちゃん……あなたの心を折るのよ……!)
私は深呼吸し、
「ミリア。今日の髪型……少し乱れていてよ?」
(完璧! これは立派な嫌味!!
さあ落ち込んでちょうだい!)
だが。
「えっ……エリザベート様……気づいてくださったんですね……!」
ミリアは嬉し涙を浮かべた。
「今日、風が強くて……
でも誰にも気づいてもらえなくて……。
ありがとうございます……!」
(違うのよ!? 慰めてない!!
嫌味なのよ!?)
周囲の令嬢達まで集まる。
「エリザベート様、さすが……!」
「細やかな気遣い……今日もお優しい……!」
(なんで嫌味が“気遣い”扱いなの!?)
***
◆② 物を壊してみた結果
(ならば……これなら確実に悪行ですわ!)
廊下に置かれた花瓶。
高価な装飾のある一品。
(ここで! 軽く壊してしまえば!
悪役令嬢らしさ満点ですわ……!)
私はそっと手を伸ばし……
花瓶の位置を“わざとらしく”ずらした。
すると。
ドンッ!!
「あっ……!」
通りかかった男子生徒が花瓶に足を引っかけ、
そのまま転倒しそうになった。
(まずい……!)
私は反射的に手を伸ばし、彼の腕を掴んで引き寄せた。
花瓶は――
ギリギリ床に落ちず、私の手でキャッチされた。
「エリザベート様!!」
「すごい……! あの状況で助けた……!」
「まさに淑女の鏡……!」
「しかも高価な花瓶を……なんて器用……!」
(違う違う違う!!
今のは! 私が壊そうとしたのよ!!)
花瓶の持ち主までも走ってきて、深々と頭を下げた。
「ローゼンクロイツ様……!
ありがとうございます! 貴重な花瓶を守ってくださったなんて……!」
(守ってませんわよ!!
壊そうとして失敗しただけなんですのよ!!)
***
◆③ 誰かの“邪魔”をしてみた結果
昼休み。
ミリアの勉強会に令嬢達が集まっていた。
(ここで邪魔をして、好感度を下げてみせますわ!)
私はわざと本の上に手を伸ばし、
「あら? ここはわたくしの席ですわよ?」
(言った!! これこそ嫌われるムーブ!!)
だが令嬢達は目を輝かせた。
「エリザベート様が来てくださった……!」
「その……勉強を見ていただけたり……?」
「わ、私もお願いしたいです!!」
(邪魔じゃなくて“参加希望”扱いなの!?)
ミリアまで赤くなって言った。
「エリザベート様が一緒だと……
私たち……もっと頑張れる気がします……!」
(全てが善行に変換される世界なんてある!?
私、呪われてますの!?)
***
◆④ 最終手段:殿下への冷たい態度
一日の終わり。
殿下が私に近づいてきた。
「エリザベート、今日の講義はどうだっ──」
「殿下こそ……お忙しいのでしょう?
わたくしに構っている暇など、ありませんわよ」
(言った!!
最大限に冷えた声!!
これは絶対に刺さるはず!!!)
殿下は静かに目を細め……
ゆっくりと息を吐いた。
「……そんなふうに、
“気遣って距離を置こうとする”君が……
私はたまらなく愛しい」
(はぁぁぁ!?
どこに愛が発生する要素がありましたの!?)
周囲の生徒達は一斉に感動し、拍手を送った。
「エリザベート様……大人の距離感……!」
「殿下との信頼が深すぎる……!」
「尊い……!!」
(尊いじゃない!!
今日一日、私、悪行しかしてませんわよ!!!)
私はその場に崩れ落ちた。
(罪を重ねようとしただけなのに……
どうして……すべて善行扱いになるのよ……?)
空は青く、今日も残酷に輝いていた。
お読みいただきありがとうございます!
第19話で、
エリザベートはついに “悪行不可能体質” と化しました。
次の第20話は、
ヒロインが「エリザベート様は悪くない!」と全力庇護する地獄回
となり、悪役としての希望が完全に折られます。




