第2章 第11話――証拠を捏造したつもりが、商人に感謝されて恩人扱いになりましたわ!?
第11話では、
主人公がついに“証拠捏造”という完全アウトな行動に踏み切るも、
すべてが善行に変換されるという地獄回でした。
・自作捏造 → 商人が止める → 勘違い
・憲兵登場 → 事件の救世主扱い
・殿下の好感度爆増
・ミリアの尊敬MAX
と、悪役になろうとするほど周囲の評価が跳ね上がる恐ろしい構造。
第2章はここからさらに加速します。
第2章 第11話――証拠を捏造したつもりが、商人に感謝されて恩人扱いになりましたわ!?
自作自演の“いじめ現場”が、まさかの全面擁護で終わった翌日。
私はベッドの上で頭を抱えていた。
(うそ……嘘でしょ……。
断罪イベントの布石、全部ひっくり返されましたわ……!!!)
殿下は私を全力で庇い、
ミリアは「エリザベート様に守られた」と泣いて喜び、
学園中は「自己犠牲の乙女エリザベート様」で大盛り上がり。
(違う! 違うのよ!
私は“悪役令嬢”になりたいだけなのよ!!)
こうなったら――
次の策へ進むしかない。
(断罪イベントの必須アイテム……
それは “いじめの証拠” ですわね!)
私は膝を叩き、勢いよく立ち上がった。
――ミリアの悪口を書いた“匿名文書”でも作って落としておけば、
私が犯人と思われて嫌われるはず!
これぞ悪役令嬢の基本ムーブ。
王道・裏工作!
(これなら殿下もミリアも私を責めざるを得ませんわね!)
私は紙とペンを持って家を出た。
***
放課後の学園裏道。
人通りが少なく、証拠捏造にはうってつけ。
(さて……悪役っぽく、雑な字で……)
私は紙に書き始めた。
『ミリアは庶民のくせに――』
「ちょっと待った!!」
「ッ!!?」
突然、怒鳴り声がして紙を落とした。
振り返ると、見知らぬ若い商人が息を切らして立っていた。
「やばいですよお嬢さんッ!
そんな紙、絶対に書いちゃダメです!!」
「えっ?」
(ま、まずい……! 見られましたわ……!
これこそ悪評まっしぐらの展開っ……!!)
商人は震える手で私の紙を拾い上げた。
「この内容……誰かを陥れようとしてるんじゃないですか!?
もし見つかったら、お嬢さんが罪を被ることになるんですよ!!」
(いや、罪を被るために書いてますのよ……)
しかし商人の目は、決意に満ちていた。
「危なかった……あなたが悪事に巻き込まれるところだった……!」
「い、いえ……これはその……」
「俺、見ちゃいました。
あなた……迷ってましたよね?」
「迷ってました!? いつ!? 私そんな素振りありました!?」
「ありました! 絶対に!!
“これは良くないことなんじゃないか”っていう勇気ある迷い……!」
(な、なんて脳内補完力!?)
さらに商人は、深く頭を下げた。
「止められてよかった……!
あなたのような立派な方が、汚れ仕事に関わるところなんて見たくありませんから!!」
(違う!? 私は今まさに汚れ仕事をしようとしていたの!!)
するとちょうどそこへ、
憲兵がパタパタと駆け寄ってきた。
「おい、お前! 最近出回ってる偽文書事件……知ってるだろ!」
(え!? 偽文書事件!?)
「その紙……どこで手に入れた!?」
「ち、違うんです隊長! このお嬢さんはむしろ――
この“偽文書作りの黒幕”を見つけようとしてたんです!!」
(待って待って待って!?)
「なんだと……!?」
「お嬢さん……それは本当か?」
(違う!! 私が黒幕ですわよ!!
むしろ今、黒幕を体験してましたわよ!!)
しかしここで最悪のタイミングで起こる。
「エリザベート様――!」
(殿下!? ここに来るのはマズい!!)
アレクシス殿下と、ミリア、クラリス、アイリーンまで
ぞろぞろ現れた。
「殿下、このお嬢さんが……!」
と商人が感動しすぎて説明する。
「偽文書の被害に遭う前に、正義感で行動してくださったんです!!
俺、見てました!!
お嬢さんは“騙されないように注意しながら紙を検分して”……!」
(その行為……全部捏造のためのチェック作業ですわよ!!!!)
殿下は静かに、しかし確信に満ちた目で言った。
「やはり……エリザベート。
君はどこにいても“人のために動く”のだな」
「~~~~~ッッ!!?!?!」
殿下は私の手を取る。
「もう危険な真似はやめてくれ。
君が傷つくのは……見たくない」
(だから違うのよぉぉぉぉぉ!!
私は悪役になろうとしているの!!!)
ミリアも涙目になって私の手を握る。
「エリザベート様……
偽文書事件を止めてくださって……ありがとうございます!!」
(止めてないッ!! 作ろうとしてたッ!!!)
憲兵までが深々と頭を下げた。
「ローゼンクロイツ嬢。
あなたの勇気ある行動に感謝します。
この国は、あなたのような方に支えられている」
(なんで“捏造証拠作り”が“国の英雄行動”になるのよぉぉぉぉ!?)
その日の町ではこう噂された。
「ローゼンクロイツ嬢、若き商人と共に偽文書事件を阻止」
「憲兵隊、エリザベート様を功労者として認定」
「偽文書の黒幕に警告を与えた救世主」
(違う!! 黒幕は私ですわぁぁぁぁ!!)
私はもう泣きたい。
(悪役令嬢になるの……
もう無理なんじゃありません……?)
空は青く澄み渡り、
私の絶望を祝福するかのように輝いていた。
お読みいただきありがとうございます!
捏造のつもりが“国の功労者”という、
本作でも最高クラスの誤解劇が描けました。
次は 第12話:決定打として殿下に不敬発言 → 「本心を言える唯一の存在」扱い
という、殿下との恋愛フラグが完全に暴走する回です。




