プロローグ ――悪役令嬢になりたくて
はじめまして。
本作を手に取っていただきありがとうございます!
この物語は
「悪役令嬢になりたいだけの転生者が、なぜか善行扱いされまくるコメディ」
をテーマにしています。
悪事を働くつもりはある(本人比)
↓
でも全部プラス効果
↓
周囲「エリザベート様こそ理想の令嬢!」
そんな“ズレ”と“勘違い”を楽しんでいただければ幸いです。
軽く読めて笑える物語を目指しますので、
どうぞゆっくりお楽しみください。
プロローグ ――悪役令嬢になりたくて
私は――悪役令嬢になりたかった。
幼い頃から……ではない。
高校生になって、SNSを流れてくる“高笑いする令嬢”や
“断罪イベントでスカッと啖呵を切る悪役令嬢”に心を奪われてからだ。
ドレスを翻し、優雅に笑い、圧倒的な存在感で場を支配する。
その孤高さ、絢爛さ。
ああもう、たまらない。
ら
「この紅茶、生ぬるいですこと。淹れ直しなさい」
「まあ、浅ましいこと。わたくしの前に立つなど百年早くてよ」
……そんな台詞、現実で言えるはずがない。
バイト先で言ったら秒でクビだ。
だから私は、教室の隅や自室でこっそり“悪役令嬢ごっこ”を堪能していた。
名前は一ノ瀬ひより。
どこにでもいる普通の女子高生。
勉強も運動も普通。
唯一好きなのが“悪役令嬢”。
――ドレスを着て高笑いしたい人生だった。
そんな矢先。
雨上がりの横断歩道で、視界がふっと傾いた。
「あ……」
痛みはなかった。
音も、感覚も、すべてが遠くなる。
最後に浮かんだ願いは、あまりにくだらなくて、あまりに本気だった。
――次に生まれるなら、悪役令嬢になりたい。
その願いを胸に、意識は白く消えた。
***
「……お嬢様? お目覚めになられましたか?」
耳に落ちる柔らかい声。
私は目を開けて――固まった。
天蓋付きのベッド。
煌めくシャンデリア。
磨かれた大理石の床。
そしてベッド脇には、エプロンドレスの侍女が立っている。
侍女は優しく微笑んだ。
「エリザベートお嬢様。ご体調が優れないと伺っていましたが……もう大丈夫で?」
エリザベート。
お嬢様。
……え?
私は震える手で、そっと姿見を覗き込んだ。
そこに映ったのは――
金の巻き髪、宝石のような瞳、完璧なドレス姿。
まごうことなき“悪役令嬢”そのものだった。
「……ま、まさか。転生……?」
声も仕草も上品で、勝手に絵になる。
やがて頬がゆるんで、口元が勝手に跳ね上がった。
「悪役令嬢キターーーッ!!」
人生最大の願望が、今ここに。
私はこの瞬間、心の底から誓った。
悪役令嬢として絶対に華麗に生きてみせる!
……まさかこのあと、私の“悪行”が全部善行と勘違いされ、
国中から好かれてしまう未来も知らずに──。
⸻
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!
プロローグは主人公の
「悪役令嬢になりたい!」
という願望全開でスタートしました。
ここから先、
・意地悪をしようとして人を救う
・悪役ムーブをして褒められる
・断罪イベントを自作しようとして失敗
などなど、破天荒な展開が続きます。
次話から本編が始まりますので、
お時間あるときにまた覗いていただければ嬉しいです。
では、次話でお会いしましょう。




