幕間 sideカトレア
カトレアは貴族の娘だった。父が貴族で母が探索者だった。父は貴族でありながら探索者をしていて母はそんな彼のパーティーメンバーだった。
カトレアは、毎日父が話してくれる冒険譚が大好きだった。今日はこんなすごい魔物を倒したとか、新しい階層はとても寒いところであったとか、毎日面白おかしく語ってくれた。
それを微笑ましそうに見る母とキラキラした目で聞く私。そんな日常が私の幸せだった。
そして両親を出会わせてくれた、こんな楽しい話しの尽きない場所、そんな塔に興味をまた好きになるのも当然のことであった。
だがそんな幸せな日々は突然終わりを迎えた。カトレアにとって最悪の形で。
その日もいつもと変わらずカトレアは、両親の帰りを待っていた。今日はどんな話を聞かせてもらえるのか、期待に胸を膨らませ今か今かと楽しみにしていた。
父が帰ってきた事に気づいたカトレアは走って出迎えにいった。しかしそこにいたのは正規の抜けた様な顔をした父だけだった。まだ幼かったカトレアは、父に聞いた。
「…お母様は?」
「お母様はな、もう帰ってこないんだ。」
今にも泣き出しそうな顔でそう言われた。その時の顔を私はいまでも覚えている。それから幼い私は父に泣きついた。どうしてお母様が死ななければいけないのか、お父様がいながら何をしていたのか、子供ながらの余りに残酷な言葉の数々。
それを浴びせられた父は、壊れてしまった。
最愛の娘に言われたからか、それとも母を失った時点で壊れていたのかはわからないが
だだ――あぁ、すまない。すまない。と
光のない目でぶつぶつと返事を返すだけ。
そんな風になってしまった父に物心ついたカトレアは嫌気がさしていた。いつまでそんな風に落ちぶれているのかと。母様死なせて挙句そのザマかと。
それからのカトレアは父の元パーティーメンバーに話を付けて探索者になる為の特訓を始めた。元パーティメンバーの人たちも、カトレアの母を守らなかった申し訳なさもあるのか文句を言わずに手伝ってくれた。
彼らなりの贖罪のつもりなのかもしれない。
あんなに楽しかった塔の話も今では真剣な顔で一言一句聞き逃すことのない様に頭に入れていく。その顔はあの時の様に輝いてはいなかった。
塔の勉強と並行して戦う為の模擬戦もしてもらった。しかし、幼い、そして華奢な女であるカトレアは武器を満足に扱うことはできなかった。
――上手くいかない。
そんな日々を過ごしていたある日ふと、父たちが持って帰ってきた塔の宝存在を思い出す。探索のために売らずに取っておいたものの中に何か使える物があるのではないかと、同じ女性の母の使っていた物なら私にもと。
家の倉庫を漁るカトレア。そして見つける。それは火属性の魔法のスキルオーブだった。魔法使いがいなかった父のパーティーだったが貴重な物のため取っておいたのだ。
火属性魔法。それはとても強力な魔法だった。まさに天啓だった。これがあれば、母様を奪った塔の魔物を倒すことができる。カトレアは確信した。
それから探索者のキャンプに参加した。しかし思わぬ落とし穴があった。魔物を倒したことのないカトレアは、強力な魔法を発動するので精一杯。威力もお粗末な物であった。さらにそんな魔法も一発使えば動けなくなる。ラット程度は容易く倒せる様だったが、お荷物であった。
武器はろくに振るうこともできず、肝心の魔法も一発限り。その後は力を消費してしまい探索もろくにできない。貴族のチームだったのがさらに余計だったのだろう。チームメイトであるはずの彼らは、カトレアを嘲笑した。
――意気込んで魔法を打ってそのザマかと、これでは母上も浮かばれない。
それは禁句だった。怒り狂ったカトレアはあろうことかチームメイトに向かって魔法を放った。制御を離れた魔法は暴走して周りのものに襲いかかる。
当然キャンプは不合格となった。キャンプを不合格になるものは基本的にはいない。腫れ物を見る様な目でたくさんの人に見られた。
家に帰ったらカトレアを待っていたのは冷たい目をした父だった。ギルドから話を聞いたのだろう。
それから今回怪我を負わせた貴族の家に父と謝りに行った。先に言ってはいけないことを言ったのは向こうだと。カトレアは、謝る先々で文句を言った。
その翌日、父から今回の責任をとってお前を奴隷に落とすと言われた。反省の態度を見せないカトレアにご立腹の貴族を宥めるにはこれしかないと言われた。
反論しようと父を睨めつけようとしたカトレアは父の目を見てぎょっした。その目には何も映っていなかった。
娘であるはずの私のことさえも。
そしてカトレアは奴隷になった。




