2-2.ワレワレハ宇宙人ダ
「うぅ〜、暑い〜」
6月、ろくに雨が降らない梅雨真っ只中という頃。
メロスがふらふらと教室に入ってきて、机に倒れ込んだ。
「おはよ。大丈夫か?」
「おはようございます⋯。今日暑すぎじゃないですか〜?」
「なー。まだ6月なのにな」
机の中をあさり、ノートの背表紙でパタパタあおぎ始めるメロス。冷房は付いてはいるが、確かに外から来た直後は暑いだろう。
「なっさけないね〜。今からそんなんじゃ日本の夏は死ぬぞ」
「リュウ君。おはようございます。そんなにですか⋯?」
メロスが絶望的な顔になって言う。
「夏はこれからだろ。まだまだ暑くなるぜ」
「日本の夏は殺人級ですね⋯」
「メロスのいたとこはこんなに暑くないの?」
「そうですね、どっちかといえば寒い地域かと」
「へえ。じゃあ寒い方が得意なんだ?」
俺もどっちかと言うと寒い方が得意だ。夏は夏休みがあるからまだ楽しみに出来るけど、大人になって夏休みがなくなったら、自分は生きていけるのだろうかと、今からちょっと心配になる。
「得意と言われると微妙ですけど⋯。夏がこんなってことは、冬はそこまで寒くないんですか?」
「うーん、冷蔵庫よりちょっと低いくらい?」
「寒いじゃないですか! 地球がこんなに生きづらい星だとは思いませんでした⋯」
「俺は地球以外にそんな快適な星があるとは思わなかったよ⋯」
ショックを受けたのか、メロスはまた机に突っ伏してしまう。と思ったら、机に頬を付けてにこにこしていた。
「机、冷たくて気持ちいいですね」
「⋯良かったな」
「けど、そんなんだと確かにちょっと心配だし、冷感グッズとかあった方がいいんじゃん?」
「冷感グッズ?」
疑問符を浮かべるメロス。買ってもらえば、と思ったけれど、一緒に住んでいるという執事さんも、どの程度日本の事情に詳しいのかわからないし、想像がつかないものを買いに行くのは大変だろう。
「一緒に買いに行く?」
「いいんですか? ありがとうございます!」
こうして俺は、次の休みに一緒に買い物に行くことになった。
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「休みの日に一緒に買い物とか、初めてだね」
次の土曜。空いているという学も誘って、3人でショッピングモールにやって来た。
冷感グッズならその辺のスーパーにだって売っているが、せっかくなので遊びに行くことになったのだ。
親には受験生だろうと言われたが、参考書も買うからと言って誤魔化した。いや、本当に買って帰れば誤魔化しですらなくなる。何も問題はない。
「わあ! すごい! 広いですね!」
メロスは目をキラキラさせている。
「メロスのとこには、こういう大きな店とかないの?」
「ここまで広いところはあんまり⋯。セリヌヴァカラ星は、地球より小さい星なので」
メロスが声のトーンを落とす。宇宙人であることは秘密なので、会話には気を付けないと。
まずはお目当ての冷感グッズ売り場へ向かった。すでに大きく売り場が作られている。
「これは何ですか?」
メロスがネッククーラーを指差した。
「それは首に付けると、熱中症にならないんだよ」
「冷たくなるんですか?」
「いや、冷たくはない」
「使ってる人多いよ。メロスも1個持っとくといいかも」
俺たちには身近なものでも、メロスにとっては物珍しいようで、1つ1つ説明をする。
結局、ネッククーラーやハンディファンなど、いくつかオススメを買うことになった。
「ここ涼しいですね〜」
扇風機がたくさん置いてある売り場で、メロスが足を止める。
最近は羽がないものなんかもあるが、ここにあるのは昔ながらという感じの扇風機だ。
扇風機の風に当たっていると、子どもの頃よくやった遊びを思い出す。
「ワレワレハ、宇宙人ダ〜」
「ぷっ!」
「ちょっとぉ!」
まさに今思い出して懐かしく感じていた台詞が聞こえてきて、俺は噴き出した。隣にいた学も笑っている。
「ヤバい、ウケる」
「もう、アッハハ、売り物で遊んじゃダメだって⋯、ぷっ」
「2人とも笑い過ぎじゃないですか?」
「いや、だって⋯」
本物の宇宙人がこれをやるっていうのが、なんかハマった。
「ヤバ⋯、ツボった⋯」
学がお腹を抱えて笑っている。
「? こういうの、やりませんでした?」
「うん、やったよ昔。やったんだけどさ、」
扇風機のすぐ前でしゃべると、声が震えて宇宙人みたいになる。子どもの頃よくやった遊びだった。
メロスにとっても、宇宙人ってこういうイメージだったのだろうか。ああでも、メロスは日本の漫画で育ってるから、ちょっと俺らの感覚に近いのかな。
なんとかおさまったのか、涙を拭う学を見ながら、メロスもくすくすと笑っていた。




