1-6.走れメロス
なんとか試験を切り抜け、いよいよ体育祭本番となった。
謎に包まれていたメロスの執事、じいやにも会うことが出来た。ザ·執事という感じの、紳士的な初老の髭のおじさんだった。
「皆様、いつもスンヴァニリシア様がお世話になっております」
だからなんでみんなわざわざ言い辛い方で呼ぶんだ?使用人がそう読んでいるってことは、苗字じゃなかったのか。
昼休みにじいやさんが作った豪華なお弁当を俺たちももらって、鋭気を養う。
プログラムは順調に進み、いよいよメイン競技、クラス対抗リレーを残すのみとなった。
「うぅ、緊張してきました」
「大丈夫だよ。たくさん練習したんだし。メロスのあとはアンカーのリュウだから、きっとリュウがなんとかしてくれる」
「そうですね! リュウ君かっこいいですもんね!」
「格好は関係ないけど。とにかくケガだけしないように気をつけて頑張れ」
全校生徒200人弱が全員参加な上、バトンを渡す場所もクラスによってバラバラ。クラスごとにそれぞれ練習はしてるけど、全校揃ってのリハーサルはない一発勝負なので、俺も緊張はしている。
放送が入り、スタートが早いメンバーがトラックに入る。
「じゃ、行ってくる」
「おう! 頼んだぞ」
第1走者の学がスタートラインへ向かって走っていった。
「位置について、よーい⋯」
パーン!
ピストルの音が響いて、6人が一斉に走り出した。
うちのクラスは学がまず1周するところから始まる。リレーはスタートが1番ごたついて危ないので、ここは男が担当しているクラスが多い。
学のあとは足の速い女子が続く。ここで一気に差をつけようという作戦だ。作戦は上手く行き、途中から2位以下を大きく引き離してトップを独走状態になった。
けれど、他のクラスにも速い奴は当然いるわけで、途中何度も差が縮まるが、なんとかトップはキープしていた。
俺の順番は28番。俺の次がメロスで、それからアンカーのリュウへと続く。俺が少しでも引き離さないと、1位は難しい。
「よし、そろそろスタンバイするぞ」
「はい!」
トラックの中へ移動し、準備をする。27番の子にバトンが渡ったのを見て、俺はスタート位置に付いた。
1位と2位、ほとんど差はない状態で、俺にバトンが回ってくる。もうここまで来るとどのクラスもラスト3人とかなので、速い奴が走るのが定石だ。
なかなか差をつけられず、それでもなんとかトップを守りきったまま、メロスにバトンを渡した。
「行けー!」
「走れー!」
「メロ――ス!!」
メロスは走った。
決して速くはないが、それでも懸命に。
金色の髪が風になびく。
「っわぁ!」
「ああっ!?」
途中で転びそうになり、周りからも声が上がる。
しかし、なんとか足が少しもつれただけで転ぶのを回避したメロスは、残り少しの距離を走った。
いいぞ。
転ぶのは最初から何度もあった。だからこそ、転びそうになったら、転んだらどうするかの練習も何度もしている。
その間に1人抜かれて2位になっていたが、そこは想定内だ。問題ない。
最後の走者、アンカーのリュウに2位でバトンが渡った。
「リュウー!!」
俺はトラックの中に倒れ込んだメロスの元に駆け寄った。
「大丈夫か!?」
「はぁ、芳樹く⋯、すみませ、僕、転びそうになって、抜かれて⋯」
「全然大丈夫だよ。よくやった」
「うぅ⋯」
「ほら立って。リュウの応援しようぜ」
「う⋯、はい!」
このリレー、アンカーは300メートルのルールがある。どのクラスもアンカーは速い奴が走るので、ルールがなくてもだいたい300になるんだけど、このルールがあることで、アンカーにバトンが渡るのが必ず応援席の真ん前になるので、かなり盛り上がるのだ。
2位でバトンをもらったリュウは、残り半周のところで、1位のクラスとほぼ並んでいた。最後の直線に差し掛かる。
「リュウ――っ!」
「行けー!!」
目の前を、風のような速さでリュウが走り抜けていった。
みんなが枯れるほど声を張り上げて声援を送る中、リュウがピンと張られた真っ白なゴールテープを切る。
ワァッと会場が沸き、今日1番の大きな歓声に、俺たちは包まれた。




