1-5.メロスとお勉強
メロスが転校してきて、1ヶ月ほどがたった。
今日の体育はクラス対抗リレーの練習だ。この1ヶ月間の練習の成果を見せる時が来た。
「はあ、はあ、はあ⋯」
「行け! メロス! もうちょっとだ!」
100メートルを走り切り、ストップウォッチを見ると、18秒台まで縮まっていた。まだまだ遅いが、最初の25秒に比べれば大進歩だ。
「すげーじゃん。バトン渡すのも慣れてきたし、よく頑張ったな」
「芳樹くんと学くんが、毎日練習付き合ってくれたので」
「メロスが頑張ってたからだろ。俺らは一緒にやってただけだし」
途中で音を上げることもなく、毎日頑張ってたのは普通に偉いと思う。
「あとはあれだな、腕をもっと振るんだ。足じゃなくて、腕を意識しろ。そしたら足は勝手に動くから」
「はい!」
「重力を味方につけるんだ!」
「はい!」
最初、重力が重いとか言ってたのに。
リュウの熱い指導は続く。
「短距離は無酸素運動だからな。本番は50メートルだし、そのくらいなら、一呼吸で一気に走り抜ける!」
「一呼吸で⋯。わかりました。宇宙空間だと思って、無酸素で一気に行きます!」
宇宙空間だと、味方に付けるはずの重力がないぞ?
リュウとメロスのやりとりを見ながら、学が呆れ気味に溜息を吐く。
「なんかバカなこと言ってるけど大丈夫?」
「大丈夫じゃん?」
体育祭本番はもうすぐ。ただその前に、俺たちには1つの試練、中間試験が待っていた。
「あー、英語わかんねぇ」
昼休み、給食を食べ終わった後、俺たちは一緒に試験勉強をやった。
「これ必要か? 今AIでどんな言語にでも変換してくれんじゃん」
「確かに」
「メロスは英語は話せるの?」
「I can't speak English. 道で話しかけられた時のために、これだけ覚えました」
「ああ⋯」
「その外見だと、普通に話しかけられそうだもんね」
俺も英語は苦手だ。学に、絶対に覚えておくべきフレーズだけ教わって、ギリギリなんとかなっている。
「英語話せてなんかいいことあんのかね?」
「さあ、それはわかんないけど。メロスは日本語覚えるの大変だった?」
「うーん、そうですね、結構大変でしたけど⋯。でも、覚えておいて良かったです。おかげでこうやって、皆さんとすぐに仲良くなれましたし」
「⋯⋯」
説得力が桁違いだ。リュウが一気に真面目な顔つきになって勉強し始めた。
そう言うメロスは、理科の教科書とにらめっこしている。
「理科、苦手なの?」
「苦手です。地球は、僕がいた星にはいない生物ばっかりですし。地学も⋯、僕の知ってる常識が通用しません」
「それは、大変だね⋯」
地面ふわっふわの雲の星だもんな。
「人間はいるのにな〜。生魚食べらんないって言ってたし、魚はいないのか?」
「地球にいる深海魚に似た生き物ならいます。でもみんな毒があるので」
「じゃああれはいる? Gが付く黒いの」
「あれはいます」
「いんのかよ!」
さすが脅威の生命力だ。恐るべし。
「数学は得意そうだったよね」
「はい。数字は宇宙共通です!」
いやそれは嘘だろう。
そう思ったが、メロスに数学の問題を訊いたら分かりやすく教えてくれたので、あながち嘘でもないのかと思ってしまった。




