1-2.走るのが苦手なメロス
今日の体育は、100メートル走だった。
たったこれだけでヘトヘトになって倒れ込んだメロスは、学から水筒の水を渡されて頭を下げている。
「ありがとう、ございます⋯」
「走るの、苦手なの?」
「っはい⋯、地球の重力が、重くて⋯」
「そうなの!?」
さっきまで普通にしてたみたいだったけど、実は割と頑張ってたのだろうか。
「そうですね、地球に来た初日はきつかったですけど、今はだいぶ慣れました。でも、走ったことはなかったので」
「そっか」
「走るとアレですね、風がこう、ブワッときて、ウオッてなりますね⋯」
「擬音⋯」
「言いたいことはわかるよ」
全員のタイムを見ながら、俺はリュウと顔を見合わせる。
「うーん、これはなかなか」
「やりがいがあって面白いんじゃね?」
「リュウ、ポジティブ〜」
俺たちの様子に、メロスは首を傾げる。
「何かあるんですか?」
「ん? 来月、体育祭があるんだ。そこで、全校生徒が参加するリレーをやるの」
「うちの体育祭のメイン競技だよ。めっちゃ盛り上がるぜ」
体育祭の最後の種目、全員参加のクラス対抗リレー。
うちの学校は各学年2クラスしかないので、1から3年まで計6クラスでの勝負になる。
1周200メートルのトラックをクラス全員で25周する。誰が何メートル走るのかは、最低50メートルから最高300メートルの間で、ある程度自由に決められる。
「うちのクラスは30人だから、単純に考えると、20人が1周、10人が半周走れば25周になるんだけどね」
「早い奴が長い距離を走って、苦手な奴は短い距離でいい。その辺の駆け引きも勝負にとって重要なんだよ」
「なるほど」
メロスがうんうんと頷いている。
「芳樹、お前は300決定な」
「最初からそのつもりだし。リュウもだろ?」
「おう」
俺とリュウは運動は得意なので、体育祭はすごく楽しみにしている。中学最後の体育祭だしな。
「すみません、僕が遅くて、足手まといですね⋯」
「別にそんなんじゃねーし。それに、体育祭まではまだ時間もある。練習すればもう少し早くなるだろ」
「練習、そうですね! 頑張ります!」
メロスはずいぶん前向きな性格みたいだ。
その時、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「お、昼休みだ。早く戻ろうぜ」
「あ、リュウ! だからメロスは走るの苦手なんだってば」
「大丈夫です! これも練習⋯、うわあっ!」
あ、コケた。
笑うのは悪いとは思いつつ、俺と学は、つい噴き出してしまうのをこらえられなかった。




