1-1.メロスが仲間になった
メロスは走った。
100メートル25秒という速さで。
「おっそ⋯」
ストップウォッチのタイムを見て、俺は思わずそう漏らしてしまった。
これはなかなか、頭が痛い。
「はあ、はあ、はあ⋯、ああぁ⋯」
バタン。
あ、倒れた。
「メロ――スッ!」
100メートルを必死に走ってきたメロス、本名メロウ·スンヴァニリシアは、この春うちのクラスに転校してきた、宇宙人だった。
✦✦✦
「今日は転校生を紹介する」
担任のその台詞に多かれ少なかれざわめきが起こるのは、今も昔も変わらない。
「女子か?」
「美人だといいな〜」
イケメンか美人を期待するのも変わらない。
俺は、中3になって転校生なんて珍しいなと思いながら、周りが喋っているのを聞いていた。
「入って」
担任が廊下に声をかける。ガラっとドアが開き、転校生が入ってきた。男子の制服を着ているから男なんだろうが、金髪碧眼のかわいらしい見た目の子だ。外国人か。
「メロウ·スンヴァニリシアさんだ。セリヌヴァカラ星から来た」
――は?
クラスがしん、と静まり返る。
担任は真面目で、普段冗談を言うような人じゃなかった。
「先生、今、なんて?」
クラス委員の学が質問する。そうだよな、学年首席もさすがにこの状況は予想出来ないよな。
「ん? だから、セリヌヴァカラ星から来た、メロウ·スンヴァニリシアさんだ」
「⋯⋯」
2回聞いてもやっぱり混乱は解けなかった。
すると、ニコニコしながら状況を眺めていた金髪碧眼の美少年が、それに見合った爽やかな声で話し始める。
「すみません。混乱してしまいますよね。皆さんに分かりやすく説明すると、僕は、宇宙人です」
「は?」
「え?」
「う⋯?」
「宇宙人ー!?」
クラス全員の声がハモる。
「と、いうわけだ」
「先生! 驚きが薄い! なんでそんな落ち着いてんの!?」
「先生だってそりゃ最初は驚いたよ。けどほら、今は多様性の時代だし」
出たな多様性。なんでもそれで片付ければいいと思いやがって。
「ちなみに、このことは国家機密らしいから、誰にも喋らないように。家族にも言うなよ」
「どんな状況!?」
なんかこんな場面、漫画かなんかで見たような。
「すみません。色々と事情がありまして。よろしくお願いします」
金髪が丁寧に頭を下げる。
「え、なに、もし喋ったらどうなんの?」
「国家機密なんだろ? 逮捕されるとか?」
「ってか、そいつ大丈夫なの? 実はもうすぐ月を永遠の三日月にします。その後は地球もそうする予定です、とか言わない?」
「いえいえ! 大丈夫です。そんなどこかの黄色い触手お化け先生みたいなことは、僕には出来ませんから」
なんか日本の漫画事情にも詳しい宇宙人だな!?
ってか、あの漫画のセンセーは別に宇宙人じゃなかった気がする。
「よし、とりあえずもう授業始まるから、あとの詳しい話は本人に聞くように。スンヴァニリシアさんの席はあそこな」
「はい」
名前、途中で切れてたみたいだけど、わざわざ言い辛い方で担任は呼ぶ。そっちが苗字とかなんだろうか。ていうか最初の星の名前も含め、噛まずにスラスラ言ってたけど、何回練習したんだろう。教師って大変だな。
金髪は、なんと俺の隣の席になった。名前をなんて呼ぶか問題はすぐに浮上し、休み時間になると、まずそこを決めることになった。
「メロウ·スン⋯、なんだっけ?」
「メロウ·スンヴァニリシアです」
「ああ、メロスでいいじゃん」
俺の前の席に座っている隆之介がそう提案する。
「メロス! いいですね! かの有名なお話の主人公の名前ですね!」
本人も喜んでいるようなのでいいだろう。なんで知ってるんだという驚きは、さっきの触手先生を知ってた時に使ってしまった。
「皆さんの名前も教えてもらっていいですか?」
「ああうん。俺は芳樹。こっちは隆之介」
「リュウでいいぞ」
「あと、そっちはクラス委員の⋯」
「学です。何か困ったことがあったら言ってね」
「はい! ありがとうございます!」
俺が普段つるんでいるのはこのリュウと学だったんだけど、席が隣になったことで、この宇宙人転校生メロスとも、この春から一緒に行動するようになった。




