彼の水槽
読み切りです。叔父×甥(甥×叔父)の短編です。
※BLです
昏い、水槽のような部屋だった。
合鍵をまわし、ドアを開けた先には、紺のシーツの張られたベッドがあった。
その脇には申し訳程度に据えつけられたテーブルと二脚の椅子が細長い影を落としている。俺は、大学の講義が終わればこの部屋を訪れた。外気より、二度ほど低く感じられるこの部屋に棲むのは、俺の叔父。母の弟だった。
俺の部屋は、勿論ある。
家賃から光熱費までアルバイト代で賄っているからとてつもない安普請のアパートに住んでいる。今にも崩れおちそうな外階段の点いたモルタルの木造。畳敷きの六畳間。
その部屋に比べれば、叔父の部屋の静けさは極楽のようにも思えるが、俺がここへ来る理由は、陽にさらされた金魚が藻影に隠れるような、そんな動機によるものでもなかった。
叔父と、俺は、恋愛関係にある。
何に言い訳を求めても、説明立てることが出来ない。
そうなったからには、そうなるしかなかった。と、でも言うのだろうか。
彼の留守にあがりこみ、冷蔵庫からバドワイザーをくすねる。二脚しかないうちの一脚を占め、本を開く。彼の匂いが仄やかにする部屋に自分の匂いをなじませながら、課題図書を読み進める。
そうこうするうちに、眠気が訪れ、俺は叔父が整えた、紺のシーツで居眠りをする。
宵の口に、玄関の鍵が開く。
天井に、庭の木の影が揺れているのが見える。
目を閉じて、音を追う。
ふに、と唇に、唇が重なる感触がして、俺は舌先を伸ばした。
仄暗い話が好きで、書き殴りました。