お供のクマさん
とある小さな村にハウちゃんという少女が居ました。その少女はとても真面目で優しい子でしたけど臆病な子でもありました。
「ハウ、お願いがあるのだけどいいかな?」
「なぁに?お母様。」
「明日隣町にいるおばあちゃんにお届け物をして欲しいの?できる?」
「私1人で……?」
ハウちゃんはすでに怖がっていました。今まで1人で隣町まで行った事が無かったからです。それもそのはず隣町に行くには少しの森があるからです。一本道ですが木が高く昼間でも薄暗い森の中を1人で歩くのは子供ながら怖い事でしょう。
「そう、1人で。お母さんは明日お仕事に行かなくちゃいけなくなったの。でも、この荷物は明日までに届けないとおばあちゃんが困っちゃうの。だからお願いできる?」
「……わかった……頑張る!」
怯えながらも困ってるなら頑張ってしまうハウちゃんは翌日の準備をします。水筒とお弁当箱とリュック、そしてお母さんから貰った御守り。そしてお月様がお空に昇る頃にはベッドに入り眠ってしまいました。
翌朝。ハウちゃんは朝早くに起きて朝ごはんを食べ終えるとお母さんが作ってくれたお弁当と水筒を持ってすぐに出発しました。空はよく晴れています。ハウは大きく腕を振って歩きます。大きな橋を渡るとすぐそこには暗い森がありました。先が見えないほどの暗闇でした。
「……大丈夫……怖くない、怖くない!」
ハウちゃんはそう言って森へと歩き始めました。木々の隙間から日の光が差していてそこまで暗くはなかった。それでもハウ君は早く森を抜けたくて早歩きになります。すると前から何かが歩いてきました。足音からして人ではありません。
「だ……だれ?」
現れたのは……クマでした。それはそれは大きなクマでハウちゃん2人分くらいの大きさです。ハウちゃんはガクガクと震えてしまいます。そしてクマの方はというとゆっくりとハウちゃんの元にやってきて……
「わ、私美味しくない……」
そこまで言った所でクマはハウちゃんの顔を舐めました。
「なるほど……確かに美味そうではないな……」
「……お腹空いてるの?」
「まぁな。だがお前では腹の足しにもならん。」
「じゃ、じゃあ……」
そう言ってハウちゃんはお弁当箱を取り出しました。
「これ食べていいよ?」
「いいのか?」
「うん!困ってる人は助けなさいって言われてるから!」
クマはお弁当箱の中の卵焼きを食べました。すると……
「美味いな!もっとくれ!」
そう言うとガッツク形でお弁当をぺろりと食べてしまいました。
「お前いい奴だな!名前は?」
「ハウだよ。クマさんは?」
「名前なんてねぇよ!それより。ハウお前のいう困ってる人は助けるっての気に入ったぞ!なら飯のお礼だ。この森を抜けるまで付き添ってやろう。」
ハウちゃんはそれがとても心強く感じました。暗い森の中を1人で歩くより誰かと一緒ならなんとかなる気がする。
「ありがとう!クマさん!」
そうしてハウちゃんとクマは歩き出しました。しばらく歩くと大きな川がありました。その真ん中に吊り橋が掛かってます。そしてハウちゃんはその吊り橋の前で止まってしまいます。
「……なぜ行かない?」
「…………」
「怖いのか?」
「……うん……」
クマはガハハと笑いました。そうして笑うとクマさんは先に吊り橋を渡りました。
「俺が歩いても落ちねぇ!大丈夫だ!」
「う、うん!」
ハウちゃんは走って吊り橋を渡りきりました。
「出来るじゃねぇか!ビビりすぎんな!」
「は、はい!」
そうしてしばらく行くとクマさんは一旦止まりました。
「ちょっと休憩するか?」
「うん……」
そこは暗い森の中とは思えないほど明るく花が少し咲いていました。休憩所には丁度良い場所だった。
「……少し待ってろ。」
「えっ?どこ行くの?」
「気にするな……いいか動くんじゃねぇぞ!」
「う、うん……」
クマさんはハウちゃんを置いて先へ行く道に向かいます。クマさんが先に行った理由……それは……
「この森は隠れやすいな……」
「そうですね、頭。」
そう山賊です。山賊とは人の物を盗んだりする悪い人たちです。その気配に気づいていたのです。そんな山賊たちの後ろに回り込むクマさん。そして近くに寄って……
「グォぉぉぉ!」
「く、クマだー!」
「に、逃げろぉぉ!」
蜘蛛の子を散らす様に山賊たちは逃げて行ってしまった。完全に逃げたのを確認するとクマさんはハウちゃんの元に戻ってきた。
「休めたか?」
「うん!」
「そうか……じゃあ行くか。」
「うん!」
そうして再び歩き始めるとクマさんがある提案をします。
「ハウよ、俺の背中に乗りな!」
「えっ?なんで?」
「いいから……この分だと日が暮れてしまうぞ!」
「……分かった。」
そうしてハウちゃんはクマさんの背中に乗らせて貰った。
「大きい!」
「そりゃークマだからな!」
「はやーい!」
「クマだからな!」
「どうしたらクマさんみたいになれるの?」
「飯をいっぱい食って遊んで寝ろ!そうすりゃ強くなるぞ!」
「うん!」
「おっとここまでだ!」
クマさんは急に止まります。気がつくと森を抜けていてもう街が見えてました。
「ここで待ってるぞ。」
「なんで?」
「俺が街に行けば騒ぎになるからな。お前1人でいけ!大丈夫だ!ここまで来れたんだ。1人で行けるよな?」
クマさんは大きな手をハウちゃんの頭に乗せて励まします。
「わかった!私もクマさんみたいに強くなりたいから!」
そう言ってハウちゃんは2、3歩歩きます。そして後ろを振り返ります。
「行ってきます!」
「おう!」
そうしてハウちゃんは街へ向かいます。そしてお日様が沈む前に戻ってくるとクマさんはまだそこにいました。
「ただいま!」
「おう、どうだったよ?」
「うん!お使いしっかりしてきたよ!あとね!これもらったの。」
そう言って出したのはアップルパイでした。
「一緒に食べましょ!だから帰りも一緒に……ね!」
「おう!じゃあ貰っておくか!」
そう言うと3口でアップルパイを食べてしまった。それをみて開いた口が塞がらなかった。
「ほんと凄い大きなお口だね!」
「おう!強くなる為に沢山食うからな!」
「私もそうなれるかな?」
「はっはっは!それは無理だな!」
ハウちゃんは少しむすっとしてしまいます。
「ハウ、お前がそんな大きな口になったら可愛くなくなるぞー!沢山食って体も心も大きくなるんだ!そうすりゃーわざわざ口がデカくなくても大きく強い人間になれるぞ!」
「うーん……」
「それにな沢山食べたきゃ胃もデカくしないとな!俺みたいにはなれないぞ!」
「……分かった!私沢山食べて、大きくなるね!」
「おうよ!」
クマさんは一際大きな声で笑います。それは森の中一帯に聞こえるほどでした。そしてその声を聞いたのは1人の狩人でした。狩人は声のする方へ向かうと一匹のクマと子供の姿でした。
「あのクマ……あの子を食べるつもりか……」
この狩人は朝、山賊たちが森にクマが出て襲われた事を話した為に出てきていたのです。もちろん山賊たちは全員捕まり今は警察にいます。
「山賊たちの嘘かと思ったが……本当だった様だ。しかし今撃てば子供に当たるやも……」
狩人はライフルに弾を詰めいつでも撃てる体制で後を付けます。
「暗くなってきたね……」
「怖がる必要はない……だろ?」
「うん!クマさんがいるから!」
そう言ってゆっくり確実に前に進みます。そして朝通った吊り橋にやってきました。
「……また渡ってやろうか?」
「大丈夫……1人で行ってみる……」
ゆっくりとしかし確実に前に進むハウちゃん。そして渡り切りました。1人で怖がらずに!
「よくやったな!」
その直後に銃声が聞こえました。そう先程の狩人がクマさんに向かって発砲したのです。
「な、なに⁉︎」
ハウちゃんはその音にびっくりします。そしてクマさんの足元には血がポタポタと落ちていました。しかしそれはハウちゃんからは見えません。
「ハウ……俺が一緒に行けるのはここまでだ。そろそろ帰らないといけねぇー」
「えっ?だって最後まで……」
「うるせぇー!良いから1人で帰れ!……いいな?」
クマさんの咆哮に一瞬ハウちゃんは驚きました。そして首を縦に振ります
「分かった……また会えるよね?」
「おぅ!また会えるさ!」
ハウちゃんは手をいっぱいに振りました。
「またね!」
「おぅ……またな……」
クマさんはハウちゃんが見えなくなるまで立っていました。そしてハウちゃんが森を抜ける頃には辺りは暗く、空には一番星が出ていました。それでもハウちゃんは怖くありません。今日のおつかいでクマさんがいてくれたから最後までは居られなかったけど側に居てくれてると思ったからです。
「大丈夫!大丈夫!」
ハウちゃんは家に着きました。長い長い1日が終わったのでした。しかし、それ以降ハウちゃんがクマさんと会う事はありませんでした。
fin…
読んで頂きありがとうございました。このお話はpixivで連載してる「嫌いな幼馴染をもう一度好きになるまで」という作品のヒロイン姫鷲文華が書いた童話です。結局私なのですが…
それはさておきいかがでしたか?最後は相当悩みました。子供を助ける為に人を驚かしたクマさんを殺すか殺さないか……
今回私は作中ではっきりと死んだという表現はしてません。というのもどちらも選べなかったからです。悲しいかな、作者としては良い事をしてるのに殺すなんて出来なかったんです。ですが人を襲った以上殺処分も仕方なし人を守る為に狩人が取った行動も正しい。どちらも正しいのです。だから選べなかった。なのでここからは読者に任せます。生きていて欲しいという方はあの後狩人は仕留めたと思ってそのまま帰ったとし実は生きていて他の森で元気に暮らしてる。もしくはしっかり止めを刺して死んだかを……
長くなりましたがいかがでしたか?楽しんで頂ければ幸いです!