表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢わたり  作者: 猫乃 鈴
28/34

第九章・3

―3―


 人ごみの中、常磐と鈴は周囲に目をやりながら歩いた。

 ふと上に目をやれば、ピンクのクジラ『くーよん』の巨大風船が、晴れ渡った青空の下、ぷかぷかと呑気に浮かんでいる。なんとも平和な光景だ。

 ここに爆弾魔が来ているなんて、誰一人、想像していないだろう。


 ワーと歓声が聞こえてきて、そちらを見ると特設ステージでショーが始まったようだった。


「リッキーのショーが始まったみたいですね」


 ステージへと向かう人の波に、流されそうになる常磐と鈴。


「これじゃ、誰が誰だか……」


 体の大きな常磐でも歩きずらい……ということは。

 見ると小柄な鈴は流されるどころではなく、人にぶつかってはあちらこちらへふらついている。

 常磐が心配していると、ややふくよかな……いや、だいぶふくよかな女性が鈴を押しのけた。鈴がよろめく。


「危ない」


 とっさに常磐は鈴の体を支えようとしたが、それが逆に仇となったようで、鈴は常磐の胸に顔からぶつかった。


「……」


 無言で顔を押さえる鈴。


「あの……大丈夫ですか」

「どうぞ、ご心配なく」


 鈴は常磐の胸をぐいと押すようにして突き放す。言葉とは裏腹に顔は不機嫌だ。

 そのとき、


「キャ!」

「なんだよ、おい!」


 なにやら後ろから、もめる声がしてきた。見ると男が無理矢理、人をかき分け走って来るのが見えた。男に押された人が転ぶ。その男を追いかけて、もう一人男が走って来た。


「誰か!そいつを捕まえてくれ!」


 追いかけている方の男が叫ぶ緊迫したその声。

 常磐は逃げる男の方を見た。男は人ごみから抜け出し、更に足を早めた所だった。


「待て!」


 常磐はとっさに男を追いかけた。男は植え込みを飛び越えたが、常磐はその男の背中をめがけてタックルした。


「うわあ!」


 男と常磐はもつれ合いながら、植え込みの中へ突っ込んだ。常磐の怪我をしている左腕にズキンと痛みが走る。


「放せ!」


 常磐は暴れる男の腕を取り、背中にねじり上げ、襟首をつかんで地面に押し付けるようにして捕まえた。

 この前の婦女暴行犯と違って、抵抗はしても凶器のようなものは持ってなく、体も常磐よりだいぶ小柄だったため、意外と簡単に取り押さえることができる。

 そこへ、追いかけていた方の男が息を切らして追いついて来た。今、気がついたが、追いかけていた男はイベントのスタッフジャンパーを着ている。やや小太りなその男は、膝に手をついて息をついた。


「あ、あんた助かったよ」

「この人はいったい何を?」


 常磐は訊いた。つい捕まえてしまったが、事情が分からない。


「ボランティアの子供達が集めた募金を盗んだんだ」


 倒れた拍子に男の手から離れた箱が転がっているのを見つけ、スタッフは中を見る。


「ああ、良かった募金は無事だよ。お兄さんお手柄だね」


 スタッフが言って、周りから拍手が起きる。いつの間にか常磐の周りは人だかりが出来ていて、常磐は恥ずかしくなった。

 男が常磐の力が少し緩んだところを逃げようと暴れる。


「おい、大人しくしろ」

「今、警備の人間を呼んできますから」


 スタッフは行きかけたが、


「あ、俺、警察の人間なので」


 と常磐は胸ポケットを探った。


「……あれ?」


 上着を開いて中をのぞく。そこに入れておいたはずの手錠は、いつの間にかなくなっていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ