表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢わたり  作者: 猫乃 鈴
27/34

第九章・2

―2―


 にぎやかな音楽が近づいてくるに連れ、人の姿が多くなってきた。

 そのとき、フェスティバルの開催を告げる花火の音が立て続けに鳴って、常磐は驚いた。

 心臓に悪い。


 結局、常磐は一人で海浜公園へと向かっていた。

 まさか、署に予告電話が入るとは思っていなかった。もし、それがなかったなら、少しは警備の人間を回してもらえたかもしれない。

 

 常磐は考えた。もしかしたら、フェイクの電話をしようと、犯人が考えたのは、夢の中で自分が邪魔をしたせいかもしれない。無意識に犯人が警戒心を強めたとしたら……それは自分のせいだ。

 それとも。自分はフェイクだと言ったが、もしかしたら、犯人は本当にショッピングモールを狙っているかもしれない。

 夢の中、邪魔をするかもしれない人間の登場に、狙いを変えたのかも。

 そもそも犯人が電話をしてきたとは限らない。誰かがいたずらに捜査を混乱させようとしただけの可能性もある。

 どちらにしても、夢の中で見たあのような光景は、夢の中でも、もう見たくはない。


 そして、海浜公園に到着した常磐は唖然とした。

 まさか、こんなに大規模だとは!

 広々とした敷地内に様々なブースが立ち並び、開催して間もないのに、すでに人でごった返していた。

 ブラスバンドの生演奏。豊富なメニューのフードスタンド。公園を一周する機関車には、子供が順番を待って列を作っている。

 なんて賑やかなんだ。この中から自分一人で爆弾魔を見つけられるのだろうか……。

 常磐が肩を落としていると、


「すみません、何か身分の分かるものを」


 後ろから声をかけられた。


「お、俺はっ」


 慌てて振り向いた常磐は、目の前に立っていた人物に言葉をなくした。


「俺が見ていた限り、今の所あなたが一番怪しいです。常磐さん」

「朝日奈さん!」


 鈴は初めて病院で会ったときと同じ、少し大きすぎるグレーのパーカーに、黒くダボダボのズボンを穿いていた。今日はフードではなく白いニットの帽子を被っている。しかもボンボン付きだ……。

 どう見ても可愛い中学生。


「いい歳こいた男性が、スーツ姿で一人来る所ではないと思いますが」


 話す言葉は可愛げがない。が、言われていることはもっともだ。


「それより、なんで朝日奈さんがここに?」

「別に。俺がフェスティバルを見に来たらおかしいですか」

「いえ……でも」

「ああ、楽しそうですね。ほら、あそこでは景品がもらえる的当てゲームがやってますよ」


 少しも楽しそうではない口調で鈴が言う。


「朝日奈さん。ふざけないでください」


 常磐は鈴の両肩を掴む。鈴は冷めた目で常磐を見ると言った。


「見てみたかったから。実際の犯罪者という奴の顔がどんなものか」

「え?」


 鈴の言った言葉に、訊き返す常磐。


「すいません、ちょっと」


 また声をかけられて振り返ると、今度はイベントのスタッフジャンパーを着た男が、怪訝な顔で常磐と鈴を見比べていた。


「君、大丈夫?」


 男は鈴の方へ言った。どうやら本格的に不審者と思われたようだ。


「あ、こ、これはですね」


 慌てる常磐を、男は更に不信な目で見る。

 すると、


「兄ちゃん、もう千円ちょうだいよ」


 鈴が甘ったれた声で言って、常磐の腕を引っ張った。


「……は?」

「今どき小遣い二千円じゃ、遊べないよ」

「え?」


 戸惑う常磐。鈴はイベントのスタッフらしい男の方を向くと


「俺の兄ちゃん、ケチなんだ」


 照れたような笑顔を見せた。

 ……何、その笑顔。


「ねえ、兄ちゃん」


 ぐいぐいと腕を引っ張る鈴。


「あ、ああ」


 常磐は財布から千円札をだして鈴に渡した。鈴はそれを受け取りポケットに入れると、


「ありがと兄ちゃん、じゃ、俺先に行ってるね!」


 輝くような笑顔で大きく手を振りながら、鈴は園内に入って行った。


「困った弟さんですね」


 男もいつの間にか笑顔になっていて、


「いや、でも可愛いもんですね。年の離れた弟って。うちも男二人兄弟で、弟がいるんですが。歳が近いもんで」

「ええ。まあ。そうですね。ははは……」


 あっちの方が年上らしいですけど。 

 男から解放された常磐が園内に入ると、鈴が何食わぬ顔で入り口脇の花壇の縁に腰掛けていた。


「うまく切り抜けられたでしょう?」


 さっきの輝くような笑顔はどこへいったのだろう……。


「はい。ありがとうございました」

「もう少し考えて行動した方がいいですよ」

「はい……」

「そもそも常磐さん一人で何ができるんですか」

「ごもっともです……」


 どうやら千円は返ってきそうになかった。


「今日は拳銃はもってるんですか?」

「いいえ。今日は個人的に出てきたものですから。手錠なら持ってますけど」


 上着の胸ポケットを叩く。


「頼もしい限りですね」


 皮肉。


「すいません」

「どうやって犯人を見つける気ですか」

「それは……」

「刑事の勘ですか」

「……」

「先ほども言いましたが、俺が見た中で今の所、常磐さんが一番怪しい人物です」

「ひどい……」


 この人はただ自分を苛めに来たんじゃないだろうか。常磐は本気でそんなことを思い始めた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ