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夢わたり  作者: 猫乃 鈴
25/34

第八章・3

―3―


「東田さん、大変です!」


 署に戻ってきた常磐は、東田の姿を見つけて駆け寄る。


「うるせえな。今、お前にかまってやってる暇はねぇんだよ」


 東田は常磐の話など、聞いていられないというように、なにやら慌ただしく準備していた。

 そういえば深夜だというのに、他の刑事もバタバタと署内を移動していて騒がしい。


「爆弾魔のことで重要な話が」

「俺もこれから、その爆弾魔のことで、出かけるんだよ」

「え、どこにですか?」


 しつこい常磐に東田は声を低くして言った。


「ついさっき、今日の正午、市長が出席する新しくできたショッピングモールのオープニングセレモニーに、爆弾魔が現れるって匿名の電話があったんだよ」

「なんですって?!」


 大きな声をだした常磐を、周りの刑事たちが見る。


「でかい声だすな。馬鹿」

「で、でも」

「警備の人数を増やしたり、検問を設置しなきゃならないんで大騒ぎだよ。お前もその腕じゃなきゃ、連れて行くとこだけどな」

「待ってください! それはフェイクなんです!」


 思わず、またも大きな声を出した常磐に、周りの刑事がまた常磐を見る。


「常磐、お前ちょっと来い」


 東田が恐い顔をして、常磐を廊下の端へと引きずって行った。


「お前、今俺たちがどれだけピリピリしてるか、いくら鈍いお前でもわかるだろ!」

「でも!」

「たとえ、匿名の電話が嘘でもな、万が一のことを考えてやれる事をやらなきゃなんないんだよ」

「そ、それは分かってます」


 東田は大きくため息をついた。


「だいたい、お前今までどこに行ってたんだ。それがいきなり帰って来て、匿名電話がフェイクだと?」


 そこで、東田がちょっと考えた。


「フェイク? ……お前フェイクって意味が分かってるか?」

「はい」

「偽物って意味だぞ? つまり本物があるってことだ」

「はい。爆弾魔が狙ってるのは、霞野海浜公園の20周年記念フェスティバルの方です」

「海浜公園? 何の根拠があって言ってる」

「そ、それは」

「まさか、また夢に見たとか言うんじゃねえだろうな」


 苦笑いを浮かべながら言った東田だったが、常磐が黙ってうつむいているのを見て、笑みが消えた。


「勘弁しろ!」


 そう言うと常磐を置いて行ってしまう。


「待ってください、東田さん!」


 慌てて追いかける常磐。


「海浜公園にも警備と検問を!」

「手の空いてる奴は、みんなショッピングモールの方に回されたんだ。お前の夢の話なんかに貸す人間は余ってねぇ」

「そんな」

「こっちは市長もからんでるんだぞ」

「こっちだって、子供や家族連れがたくさん来るんです!」


 東田は足を止めた。そして突然振り返ると、後ろをついて来ていた常磐のネクタイを掴んで引き寄せた。怒りでこめかみに青筋の立っている東田の顔を目の前に、ひるむ常磐。


挿絵(By みてみん)


「常磐……俺はな、一応被害者で犯人の野郎のことは、かなりムカついてんだ。ついでに、警察をなめたマネしやがった奴のことは、何があっても捕まえてやるって、署の人間はみんな躍起になってる。夢だかなんだか知らねえが、捜査をかき回すのはやめろ。いいな!」


 厳しい口調で言った東田は、常磐の胸倉を掴んだ手で、常磐を突き飛ばすようにして放すと、荒い足取りで行ってしまった。



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