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夢わたり  作者: 猫乃 鈴
22/34

第七章・3

―3―


 考えるようにうつむいていた顔を上げると、モザイク男がベンチから立ち上がるところだった。


「あ……」


 ベンチにバッグが置きっぱなしになっている。なんでだろう。あんなに大事に持っていたのに。バッグを持っていたときの右手の感覚を覚えている。


 ブラスバンドのパレードが目の前までやってきた。

 モザイク男はベンチからかなり離れたところまで行くと、立ち止まり振り返った。バッグはベンチの上に置かれたままだ。そこへ小さな子供が走り寄ってくる。まだ幼稚園生くらいの女の子。


 そして常磐は見た。

 モザイク男が笑っている。

 モザイクの下で、不気味に裂ける口の形が分かった。

 常磐は確信した。

 あれはやはり、犯人だ。

 あれは爆弾魔だ。

 あれは……


 常磐はベンチへ視線を戻した。女の子がバッグに近づく。


 あれは爆弾だ。

 

 常磐はベンチへ向かって駆け出した。


「常磐さん」


 鈴が止めるように名前を呼んだが、常磐は止まらない。


「それに触るな!!」


 常磐は女の子に向かって叫んだ。女の子がきょとんとしたように立ち止まる。常磐はバッグの前に立ちはだかる。


「ここから離れて!」


 常磐が言っても、女の子はその場に立ち尽くしたままだ。


「くそっ」


 常磐はバッグに手を伸ばした。


「やめろ!」


 初めて鈴が声を張り上げた。

 しかし、その声は爆音によってかき消された。


 目の前が真っ白になった。

 いったい何が起きたのか。

 飛んでいた視界が元に戻ってきて、常磐の初めに目にしたのは自分の両手だった……いや、実際は目にできなかったというのが正しかった。

 常磐の両手は吹き飛んで手首から先がなくなっていた。


「わああああ!!」


 常磐は地面につっぷした。


「常磐さん」


 鈴が常磐の元に駆けて来る。


「手……手、がっ!!」


 うめきもだえ苦しみ、鈴の声など聞こえない様子の常磐。


「常磐さん。しっかりしてください。こっちへ」

「ああ! あああああ!」

「こっちです」


 小柄な鈴が常磐をかつぐようにして、ベンチから離れた木の茂みの奥へと連れて行く。


「常磐さん、常磐さん」


 腕を抱えるようにして丸まっている常磐の前に、鈴は膝をついてしゃがんだ。常磐の肩を掴んで体を起こさせる。


「常磐さん。しっかり。俺を見て。俺の声を聞け。大丈夫。常磐さんの手は――」


 鈴は苦しむ常磐のちぎれた両手に手を伸ばした。


「ここにある」


挿絵(By みてみん)


 鈴のはっきりとした声がそう言って、目を開けると、目の前で鈴が常磐の両手首を握っていた。先ほど吹き飛んだはずの手は、ちゃんとそこにあった。


「あ……れ……?」


 確かめるように手を握ったり開いたりしてみる。


「あ……よ、良かった」


 泣き笑いのような顔をする常磐を、鈴は呆れたように見る。


「あなたという人は……」


 ため息まじりの声。


「ここは夢の中だとあれほどいったじゃないですか」


 そういえばそうだ。


「だいたい爆弾が目の前で爆発して、手が吹き飛ぶだけで済むわけがないでしょう?」


 確かに。


「あいつも実際に人が爆弾に触ったらどうなるか、想像しきれてないみたいですけど」

「え」

「ここはあのモザイク男の無意識の意識によって作られた空間。奴の思いのまま。それにしても……」


 鈴は爆弾が爆発した場所を見て言った。


「趣味が悪い」


 ようやく落ち着いて来た常磐も、鈴の見ている方に目をやる。


「これは」


 たくさんの人が倒れていた。先ほどバッグのそばにいた女の子も。そして、


「鞄の中に入ってたのは、爆弾だけではないようですね」


 倒れた人の体にはガラスの破片のようなものが、深々と突き刺さっている。爆弾の殺傷能力をあげるため、バッグに入れられたものらしい。


 そのとき、笑い声がした。

 狂ったような。

 あのモザイク男が、腹を抱えて笑っていた。


 鈴が不快感をあらわにモザイク男を見る。


「常磐さん、帰りましょう。俺たちがあいつの無意識の意識に、影響を与える前に」



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