第六章・3
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「で、いつ犯人の夢が見られるの?」
灯が少し苛ついた声で言った。
夜。時計は二十二時を差す頃。座敷部屋に大酉が用意してくれた布団に、横になった常磐を囲む鈴たち。なんとも妙な光景だ。
「君は別にいいよ。いてくれなくて」
不機嫌な灯に常磐は言った。
「鈴様に何かあったらどうするのよ」
怒られた。
飽くまで鈴のために自分はここにいるのだと。いったいなぜ、灯がそこまで鈴を慕っているのか、常磐には分からない。
「早く寝なさいよ」
「急かさないでよ。逆に眠れなくなっちゃうじゃないか。それに、普段はこんなに早く寝ないから」
「だいたい、また夢が見られるか分かんないじゃない」
「灯、少し静かに」
鈴に注意されてちょっとうつむく灯に、少しざまあみろなどと思っていると、それが顔にでていたのか灯に睨まれた。
「夢というのは自分で見ているものの、その中で自由な行動が可能かというとそうでもなく、目覚めて初めて自分のいた状況が夢の中だったと気づくのがほとんどです」
霧藤が間を埋めるように話し出す。
「夢の中で自分が夢を見ているという、認識をもって見る夢のことは明晰夢-Lucid Dream-と呼ばれています。鈴が見ているのははこれに近い。そして起きているときと同じように、自分の意識での行動が可能とされる」
「はあ」
霧藤の話は難しい。おかげで少し眠くなってきた。
「常磐さん。夢に関わるにあたって、覚えておいてほしいことがあります」
今度は枕元にいる鈴が言った。
「は、はい」
「他人の夢の中で勝手な行動はしないでください。夢の主導権は飽くまで、夢を見ている本人にある」
「はい」
「あと夢が現実にも影響を与えることがある、ということも忘れないように」
「分かりました」
本当はあまりよく分かっていない。いったいどんな影響があるというのだろう。
「あと」
「まだあるんですか」
つい口から出た言葉に、灯の目つきが険しくなる。
「黙って聞きなさいよ」
「……はい」
「あと、自分がいるのが夢の中だということを忘れないように」
念を押すように鈴は言った。
「けして」
◆◆◆◆◆◆
時計を見ると、もうすぐ二十三時になるところだった。
爆弾に問題があることに気がついて、それを直していたらこんな時間になってしまった。
思わぬミスだったがもう大丈夫。落ち着け。もうミスはない。
警察のトイレの爆破があんなにうまく行くとは思わなかったが、爆発の規模は想定通り。あれなら、爆破の瞬間を署内で味わうこともできたかもしれない。
署から少し離れたファーストフードの店で、その瞬間が来るのを待つ間の、あの気持ち。遠くから爆発音が聞えたとき、つい顔がにやけるのを抑えられなかった。
警察は今頃、次の爆破予告のことでバタバタしていることだろう。
さあ、明日のために眠ろう。
もっとも、遠足前の子供のように、なかなか眠れないかもしれないが……。