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夢わたり  作者: 猫乃 鈴
16/34

第五章・3

―3―


『警察ノ皆サン。僕ノプレゼント、気ニ入ッテクレタ? 次ハ誰ニアゲヨウカナ。フフフフフ』

「ムカつく声」


 西山はテープの加工された音声に顔をしかめた。霞野署には、霞野署〈トイレ〉爆破事件捜査本部が結成され、警察の威信にかけて犯人を捕まえようと捜査が行われていた。


「テープから何かつかめないのか。いまどきカセットテープって」


 署に戻って来た東田が、自分が病院にいた間の捜査資料を見ながら言う。

 爆破現場から見つかったカセットテープには、犯人の挑発的な言葉と、次の犯行声明とも取れる内容が入っていた。


「このテープ自体、何年も前に製造を中止したもので、テープからは犯人をつかめそうにないわ」

「音は?」

「犯人の声以外、特になんの音も拾えないみたい」

「爆弾の方からは、何か掴めなかったのかよ」

「今どき、爆弾くらいなら誰でも作れるのよ」


 インターネットの普及により、様々な情報が簡単に手に入れられる。

 爆弾という凶器が、もはや“爆弾くらい”と言われる程度のものなのだということに、東田が苦い顔をする。


「結構な勢いで飛んで来たぞ、あのドア」

「たしかにあの威力の爆弾作りは神経がいるかもね。単純な仕組みだったけど時限式の爆弾だったし。作ってる最中に爆発させたら、怪我どころじゃ済まないわ」


 東田は窓のブラインドの隙間から、外を見た。


「マスコミが大喜びだ」


 テレビ局のカメラがずらりと並び、各局のレポーターがマイクを握っている。


「せっかくだから、インタビューでも受けてくれば? 爆発の中から生還した刑事さん」

「冗談じゃねえや。もう二、三日入院させろっての」


 バタバタしている署内で、一応被害者の東田は面倒臭そうに言った。


「その程度の火傷じゃあ、入院費は自腹ね」


 東田と西山のやり取りも、いつも通りに復活している。


「常磐はどうしたんだよ。またいないじゃねぇか」

「常磐はこの事件で気になる事があるからって、出かけたわ」

「あいつ大丈夫かよ。最近おかしくないか? 昨日も夢がどうとか言ってたし」


 病院で目を覚ました東田に、常磐は喜んだり怒ったりしながら、また夢の話をしてきたのだ。

 西山も常磐の様子を思い出して、心配そうな顔をする。


挿絵(By みてみん)


「東田。あんたちょっと気をつけてやってよ。刑事の自殺なんて、それこそマスコミの恰好の餌食なんだから」

「あいつに自殺する度胸はねえよ」

「とにかく、あんたが一番常磐といつも一緒にいるんだから。頼んだわよ」

「……はいはい」

 念押しするように西山に言われ、東田は肩をすくめると、いつものように適当な返事を返した。





◆◆◆◆◆


「おはようございます。鈴様」


 灯はにっこり笑って言った。鈴はいつの間にか、灯の膝を枕にしている状態で横になっていることに、小さく溜息をついた。


「灯……いつ帰って来た」

「三十分程前です」


 体を起こす鈴に、残念そうな顔をする灯。


「大酉」


 座敷の戸を開け、店にいる大酉を呼ぶ。


「はい」

「どれぐらい」

「二時間くらいお休みでした」


 大酉は店の柱にある、黒縁の古めかしい時計を見ると答えた。


「二時間……」


 目頭を押さえる鈴。


「鈴様、大丈夫? 」


 灯が心配そうに鈴を覗き込む。


「少し気分が悪い」

「霧藤さん呼びますか?」

「いらない」


 大酉の言葉に、鈴は嫌そうな顔をする。

 大酉は思い出したように言った。


「そうそう、鈴さんがお休みになっている間に、またいらっしゃいましたよ」

「何が」


 不機嫌な声で訊いたのは、鈴ではなくて灯。


「何って、この前の刑事さんですよ。今、上で霧藤さんと話してると思いますが」


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