第四章・1
第四章
―1―
「本日午後三時過ぎ、こちらの霞野署内で爆弾が爆発するという事件がありました」
夜のニュース。署をバックにレポーターが言った言葉に、夕食後の居間で茶を飲んでいた霧藤たちはテレビの方を向いた。
「心配ですね。さっきの、えーと」
鈴の前にお茶を運ぶ大酉に、
「常磐要」
鈴が教える。
「そうそう。常磐君。今頃大変でしょうね」
「さすが予知夢刑事ってところかな」
霧藤が言うと鈴が無言で霧藤を睨む。霧藤はそんなことにはお構いなしで言葉を続ける。
「だって、そう思わないか。彼が夢で見た箱はきっと爆弾だ」
「決まった訳じゃない。むしろ、そんな考えができるなんて感心だ」
霧藤を馬鹿にしたような鈴の言葉に、灯も賛同する。
「そうよ。あいつが見た夢はいつも通ってる署のトイレに行ったってだけじゃない。」
灯の場合は、ただ単に常磐が気に食わないという部分があるが。
「現場は今も騒然としています。詳しいことはまだ分かっておりませんが、情報によるとなんらかの爆発物が、外部から署内に持ち込まれた模様です」
テレビがニュースの続きを伝える。
「最近のニュースは本当、情報が早いね」
感心する霧藤。
「爆発があったのは、署内一階にある男子トイレだそうです。爆破当時は署内で行われている、小中学生が対象の柔道教室が開かれており、子供とその保護者数名が署内にいましたが、怪我人はいないということです。なお、霞野署の刑事一名が爆発に巻き込まれ、病院に運ばれたという情報が入っています。現在、署内の防犯カメラの確認、爆発物の特定などが進められている模様です」
映像はニュースのスタジオに戻る。
「スタジオでは署内の模型を使って、説明をしたいと思います」
カメラが急拵えにしてはよくできている、トイレの模型を映した。
「このトイレには、このように三つの個室があり、署内のトイレはすべて同じ作りになっているそうです。この個室の真ん中ですね。こちらです。このトイレが今回爆破されたということです」
アナウンサーが模型を棒で指し示しながら説明する。
「模型なくても分かるよねぇ」
霧藤が笑う。
「それにしても、すごい偶然だね」
「そうだな」
鈴は答えてそっぽを向く。
「偶然だなんて思っていないだろ?」
霧藤が少し意地悪い口調になる。テレビで流れた情報は、常磐が話していた夢との一致が多すぎる。
「ちょっと霧藤」
灯が苛ついて席を立ち霧藤に食って掛かるが、そんな灯を鈴が手を上げて静止する。すると灯はシュンとして大人しく鈴の隣に座った。
「いいだろう。仮にあの刑事の見たのが予知夢だとする」
「何か問題でも?」
「気になるのは、あの刑事の夢はすべて“犯人の視点”だということだ」
鈴はそう言って、ほどよく冷めたお茶に口をつけた。